カレントテラピー 34-1 サンプル page 11/34
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カレントテラピー 34-1 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.1 2727Ⅰ はじめに肥満の進行に伴い体脂肪蓄積の増加が認められるが,脂肪が蓄積する部位により,代謝に与える影響が異なることが報告されている.特に,内臓脂肪の過剰蓄積はインスリン抵抗性や2型糖尿病発症の一翼を担い,そのほかにも心血管リスクを増加させ得る代謝に対しさまざまな悪影響を与えることが示唆されている.また,内臓脂肪蓄積の程度を反映する腹部周囲径はメタボリックシンドロームの診断基準にも含まれており,内臓脂肪の過剰蓄積の重要性は社会的にも認識されている.内臓脂肪組織の特徴として,皮下脂肪組織と比べてマクロファージなどの免疫担当細胞が多く含まれ,炎症性サイトカインの分泌が多いことから,脂肪組織の炎症状態をきたしやすいことが知られている1).肥満に伴う脂肪組織における慢性炎症は,脂肪組織の線維化に引き続く異所性脂肪の過剰蓄積を介した糖脂質代謝異常を引き起こす.これらのことから,脂肪組織における慢性炎症を制御することは,肥満・メタボリックシンドロームに合併する種々の健康障害の克服のために重要と考えられる.本稿では,脂肪組織,特に内臓脂肪における慢性炎症と健康障害との関連について概説する.Ⅱ 内臓脂肪の過剰蓄積と慢性炎症脂肪組織は皮下脂肪組織と内臓脂肪組織に大別され,特に,内臓脂肪組織とメタボリックシンドロームとの関連が示唆されている.内臓脂肪組織は,皮下脂肪組織(図1- ①,②)に対し,大網や腸間膜の脂肪組織(図1- ③,④)や,後腹膜の脂肪組織(図1- ⑤)など,主に腹壁筋層の内部の脂肪組織を指す1).内臓脂肪組織は,脂肪組織由来ホルモン(アディ*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野特任助教*2 名古屋大学環境医学研究所分子代謝医学分野教授*3 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野教授最近の日本人の肥満症─ 新知見が拓くこれからの肥満症診療内臓脂肪蓄積と炎症酒井 建*1・菅波孝祥*2・小川佳宏*3近年,肥満やメタボリックシンドロームの世界的な増加が認められ,健康上の大きな問題となっている.特に,内臓脂肪の過剰蓄積はメタボリックシンドロームの病態の上流に位置しており,種々の生活習慣病の誘因となる.内臓脂肪組織は皮下脂肪組織に比べて炎症反応をきたしやすいことが報告されており,肥満に伴う脂肪組織の慢性炎症はダイナミックな組織学的変化を誘導し,やがて間質線維化に至る.このような慢性炎症を呈した脂肪組織は,炎症性サイトカインの過剰分泌や脂肪蓄積能の低下をきたし,インスリン抵抗性をはじめとする全身臓器の代謝異常をもたらす.今後,内臓脂肪組織と皮下脂肪組織の栄養に対する応答性の違いに注目して,脂肪組織炎症の分子機構をさらに明らかにすることにより,生活習慣病に対する新たな治療法が開発されることが期待される.