カレントテラピー 30-11 サンプル

カレントテラピー 30-11 サンプル page 18/36

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概要:
このBBBの機能不全は虚血の程度にもよるが,多くの場合1カ月程度継続する.われわれは静脈内に投与したMSCが脳梗塞の病巣へ集積する(homing作用)メカニズムに,BBBの破壊がどの程度関与するかをラット中大脳永久閉....

このBBBの機能不全は虚血の程度にもよるが,多くの場合1カ月程度継続する.われわれは静脈内に投与したMSCが脳梗塞の病巣へ集積する(homing作用)メカニズムに,BBBの破壊がどの程度関与するかをラット中大脳永久閉塞モデルを用いて検討した.この脳梗塞モデルでは,BBBの破綻は約2週間継続し,4週間後にはかなり修復されていた7).しかし,静脈内に投与したMSCは,虚血損傷後4週間にわたって同程度に病巣へ集積していた7).このことから,MSCが血管内から脳実質へ移行する際,BBBの破綻は必要条件ではないことが示唆された.また,BBBの破壊がきわめて少ないプリオン病モデルマウスを用いた実験でも,同様のhoming作用が認められている17).このように,静脈内に投与したMSCが,血管内から脳実質内へ遊走するメカニズムにおいて,BBB破綻の影響は比較的少ないことが判明したことにより,BBBが修復されつつある脳梗塞亜急性期や慢性期においても,静脈内投与で十分量のMSCを病巣へ到達させ得ることが可能と考えられた.2)時間的・空間的に多様な作用点メカニズム脳梗塞に対するMSCの治療メカニズムはいくつか推測されており,われわれも基礎研究結果を多数報告している.そのメカニズムは,1サイトカインに2),3),8), 10), 16), 18よる神経栄養・保護作用),2血管新生作用(脳血流の回復)8), 11)~14)1),2),4)~6), 19),3神経再生へと大きく3つに分類される.さらにそれぞれの治療効果が発揮される時期が異なると推測している.すなわち,1のサイトカインによる神経栄養・保護作用は,MSCが産生する液性因子が脳梗塞巣に直接的に作用するため,作用時期はきわめて早く時間単位である.2の血管新生作用は,脳梗塞発症より3日後くらいから始まり,1週間後には脳血流の回復が明らかに認められるようになる.3の神経再生作用は,1週間後から著明になり,少なくとも数カ月は漸増する.これらは動物実験から示唆されていた治療メカ16ニズムであるが,今回の臨床研究結果)においても,同様のメカニズムによる多段階的作用を強く示唆する経過が観察された.3)サイトカインの作用点本臨床研究では,細胞移植後の比較的短期間に,臨床症状およびMRI所見が統計学的に有意に変化することを確認した.神経症状の変化としては,ほとんどの症例で運動麻痺の改善やspasticityの軽快が移植後数日以内にみられ,また,MRI(FLAIR)の高信号域(high intensity area:HIA)の縮小も短期間でみられた.移植後短期間でみられるこれらの変化は,主に移植細胞が分泌するサイトカインの作用によるものと推測される.静脈内に投与された移植細胞は脳梗塞巣へ集積し,局所のサイトカインレベル〔脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophicfactor:BDNF),グリア細胞由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor:GDNF)など〕を短時間で上昇させることは実験的に確認されている3),8), 10).BDNFやGDNFが抗脳浮腫効果を呈することはよく知られているが,どれも脳梗塞急性期における脳浮腫への抑制効果である.しかしながら,本臨床研究の症例は亜急性期であり,通常の脳浮腫とはとらえ方が若干異なる可能性がある.むしろ,この時期のMRI(FLAIR)でHIAの領域は細胞内外の水分量が高い状態であると表現したほうがより正確と思われる.しかし,現在の一般臨床では,このHIAの領域はすでに死んでしまっているか,またはまもなく死ぬと予測されてきた領域であり,少なくとも既存の薬物(浸透圧利尿剤やステロイドなど)では縮小させることはできなかった領域である.もし細胞治療のメカニズムのひとつとして,病巣局所のサイトカイン上昇による抗浮腫作用で神経機能が回復したのだとすると,脳梗塞巣の既知の病態生理の概念を,根本的に考え直す必要があるかもしれない.すなわち,われわれが脳梗塞亜急性期にはすでに治療不可能と思っていた領域(FLAIRのHIA)は,実のところ損傷は完成しているのではなく,まだ治療の可能性が残っている脳組織といえる.サイトカインは抗浮腫作用やアポトーシス抑制作8用)のほかにも,神経細胞や神経軸索の膜表面にあるイオンチャネルに直接作用して,神経の興奮性に影響を及ぼすなど,さまざまな作用点を有している.68Current Therapy 2012 Vol.30 No.111168