カレントテラピー 30-5 サンプル

カレントテラピー 30-5 サンプル page 32/38

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リンパ節郭清:日本と欧米の違い国立国際医療研究センター下部消化管外科医長矢野秀朗わが国と欧米のリンパ節郭清の違いを語るとき,大きく2つの要素を考慮する必要がある.ひとつはリンパ節転移およびリンパ節郭清....

リンパ節郭清:日本と欧米の違い国立国際医療研究センター下部消化管外科医長矢野秀朗わが国と欧米のリンパ節郭清の違いを語るとき,大きく2つの要素を考慮する必要がある.ひとつはリンパ節転移およびリンパ節郭清をどう考えるかということであり,もう一つは患者の体型の違いである.わが国では,腫瘍の進行度・病期によってリンパ節郭清の程度・範囲を変えるという発想が,大腸癌取扱い規約および大腸癌治療ガイドラインに明記されており,リンパ節郭清度としてD1~3に分類されているが,欧米においてはこのような発想はほとんどない.郭清範囲は右側結腸ならD1.5ないしD2,左側結腸ならD2程度で,腫瘍の深達度・病期によらずほぼ一定であり,直腸癌でも側方郭清は行われない.その根底には,「癌にはリンパ系以外にも全身に広がるルートが存在し,リンパ節転移は全身病化systemic spreadのひとつの指標にすぎない」,「したがって予防的リンパ節郭清は生存に寄与しない」という考え方がある.これはリンパ節郭清反対論者であるCadyらが提唱したモデルで,元来乳癌や悪性黒色腫で得られた所見を基に形成された概念である.要するに,基本的にリンパ節転移は全身転移systemic spreadのひとつであり,リンパ節郭清はstaging目的に行うものという概念である.患者の体型の違いについてであるが,欧米では確かに肥満患者が多く手術が困難であり,この事実は静脈血栓塞栓症といった術後合併症の頻度が高いことなども併せて治療法の選択(ここではリンパ節郭清範囲)に影響を及ぼす.広く郭清を行うこと,すなわち,右側結腸癌においてsurgical trunkをしっかりと露出させたり,直腸癌において側方郭清を行ったりすることは,日本においてはメリット(生存率または局所制御率の向上)がデメリット(合併症)を上回ると考えられている.しかし欧米では,上記のリンパ節郭清に関する考え方を基にすると,逆にデメリットがメリットを上回ると考えられている.また,日本のリンパ節郭清範囲が欧米に比べて広いことは,切除標本におけるリンパ節の病理検索が細かいこととも併せて,stagemigration(Will Rogers phenomenon)の原因となることを念頭に置く必要がある.以上に述べたことからも,stage別の生存曲線のみを比べて,日本における生存率が高いのは手術―特にリンパ節郭清―のクオリティが欧米のものより優れているからだというのは,やや底の浅い議論といえるだろう.筆者は日本のリンパ節郭清を信奉する者であるが,日本には日本固有の癌治療の文化・歴史が存在するのと同様に,欧米には欧米の論理が存在しており,その彼我の違いを理解しなければ全く違う土俵で相撲を取っているのと同じである.90Current Therapy 2012 Vol.30 No.5464