カレントテラピー 30-9 サンプル

カレントテラピー 30-9 サンプル page 18/28

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明日を見据えた前立腺癌診療根治手術-開放手術-*藤元博行1990年に前立腺を摘出する手術が本邦の施設でも実施されるようになりそれから20数年.前立腺を摘出する手術も開腹手術から腹腔鏡下手術,ロボット支援手術....

明日を見据えた前立腺癌診療根治手術-開放手術-*藤元博行1990年に前立腺を摘出する手術が本邦の施設でも実施されるようになりそれから20数年.前立腺を摘出する手術も開腹手術から腹腔鏡下手術,ロボット支援手術といろいろなアプローチが登場してきた.癌治療においてはかつての拡大手術から,より低侵襲な治療に変遷してきた.抗癌剤治療についても殺細胞性の治療から分子標的のような細胞分裂を制御する治療に変わってきている.このような現状で局所前立腺癌に対する開放手術の意味について考察してみた.Ⅰ手術療法の目的局所前立腺癌に対する根治治療として手術療法は実施されてきた.しかし,癌の進行度や病態によって切除しても再発が高い頻度で起こりうる病態もある.したがってこれまでの局所前立腺癌に対する手術療法の目的はできるだけ再発しにくい病態を厳選して実施するということに主眼が置かれてきた.前立腺癌の正確な病態の把握は画像診断や触診所見をもってしても困難であることより,前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)値,Gleasonscoreと術前病期により病理結果を予想するノモグラムが登場した.これによって被膜外浸潤や精嚢浸潤,あるいはリンパ節転移といった手術療法を実施しても再発の危険性の高い病態を予想できるようになった.しかし一方でノモグラムでは確率が何パーセントある,ということはわかるが実際に被膜外浸潤の予想が50%であるという数値はどのように解釈するのか?確率が半々であるという理由で時に患者が手術を望んでも,手術が困難であろうという理由づけに用いられる側面もある.このように症例を選択し,癌の取り残しや再発率が高いからという理由で手術を実施しなければ手術症例の治療成績は見かけ上,良い結果となる.一方,手術が困難と判断される病態で,かつ期待余命が10年以上の場合にはNCCNのガイドライン1)では内分泌療法を併用した放射線治療が推奨される.これは手術をしても再発する確率が高いからである,という理由によると思われる.しかし手術が困難,あるいは無駄として放射線治療や内分泌療法を実施した場合,果たしてその予後は同様の病態に対して手術を実施した場合と比較して大きく劣るのであろうか.もともと局所前立腺癌の自然史は長い.たとえば,日本泌尿器科学会による癌登録データ2)では転移のない前立腺癌は治療法のいかにかかわらず,5年疾患特異生存率は98.4%である.癌治療では治療成績の優劣は大切なポイントであるが,このような予後に当面大きな差がない病態に対しては治療が不成功になった場合に起こりうる不利益についても考慮する必要があると感じている.高齢者では脳血管障害や不整脈のために抗凝固剤の服用する頻度が*国立がん研究センター中央病院泌尿器・後腹膜腫瘍科長Current Therapy 2012 Vol.30 No.990739