カレントテラピー 31-10 サンプル

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76 Current Therapy 2013 Vol.31 No.101073食塩感受性遺伝子東京大学医学部附属病院腎臓内分泌内科 広浜大五郎東京大学医学部附属病院検査部講師 下澤達雄塩分の過剰摂取が高血圧をきたすことはよく知られているが,食塩に対する血圧の反応性は個々人によって異なり,食塩感受性の高い人と低い人がいる.その違いが何によって生じるかは,いまだ完全には解明されていない.食塩摂取による血圧の上昇には,腎におけるナトリウム(Na)排泄障害が不可欠であるとするGuyton説が特に有名である.多くの研究者によって腎Na排泄調節因子について研究がなされ,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系,交感神経系などの異常により腎Na排泄障害を生じる結果,食塩感受性高血圧が発症すると考えられてきた.食塩感受性を規定する遺伝子研究は盛んに行われており,特に,単一遺伝子異常疾患のLiddle症候群やGordon症候群の遺伝子解析が行われ,最近でもGordon症候群の新たな遺伝子異常が報告されている.また,本態性高血圧患者のGWAS研究において高血圧発症に寄与する候補遺伝子が報告されているが,病因・病態が解明されたとは言い難い.一方,血圧日内変動を司る時計遺伝子Cryの異常によって副腎からのアルドステロンの過剰産生が生じ,食塩感受性高血圧をまねくことが報告された.このことはシフトワーカーなど,日内変動が崩れる職種での高血圧発症と関連する可能性が示唆され,今後,実際のヒトにおいて証明されることが望まれる.著者らは最近,アルドステロン非依存性にsmall G proteinのRac1が鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)を活性化し,食塩感受性高血圧では高食塩投与時にRac1-MR異常活性化が生じるため,腎Na排泄障害により血圧が上昇すること,また,腎交感神経系の異常活性化がWNK4-Na - Cl共輸送体(Na - Cl cotransporter:NCC)系を介して食塩感受性高血圧を発症することを報告した.特に後者では,β受容体刺激が脱アセチル化酵素であるHDAC8のリン酸化を介してヒストンアセチル化を引き起こし,その結果,Na排泄にかかわる遺伝子のWNK4の転写活性を抑制することを見出した.WNK4は腎の遠位尿細管のNCC活性を抑制しNa排泄を促すことは知られていたが,それがカテコールアミンによって抑制されることやヒストン修飾が関与するという結果はこれまでまったく予想されていなかったものであり,食塩過剰摂取による高血圧発症の過程に“エピジェネティクス”が関与することを証明した.このように,現在も食塩感受性高血圧研究は世界中で盛んに行われている.未解明の点も多く残されており,食塩感受性遺伝子について今後の研究成果を期待したい.