カレントテラピー 31-4 サンプル

カレントテラピー 31-4 サンプル page 15/30

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の新規治療に対する倫理的観点からも,初期段階では重症例を対象とするのが妥当であろう.第二に治療時期である.急性心筋梗塞に対する骨髄細胞の効果を検証した「REPAIR -AMI trial」のサブ解析によると,梗塞後5日....

の新規治療に対する倫理的観点からも,初期段階では重症例を対象とするのが妥当であろう.第二に治療時期である.急性心筋梗塞に対する骨髄細胞の効果を検証した「REPAIR -AMI trial」のサブ解析によると,梗塞後5日目以降に細胞投与したほうが,それ以前の投与に比べて治療効果が優れているという意外な結果が得られた6).これは,発症後急性期の組織環境が投与細胞の生着に不利なためと考えられた.一方,救急診療の発展に伴い,心筋梗塞の急性期を救命し得たものの遠隔期に心不全をきたす例が増加しており,陳旧性心筋梗塞あるいは非虚血性心疾患をベースとする慢性心不全に対する治療の需要は,今後ますます高まるであろう.こうした慢性期治療には,培養工程を要する心臓幹細胞なども選択肢となり得る.第三に投与手段である.開胸による直接投与は侵襲が大きく,他の手術と併せて行うことは可能だが,再治療は難しい.他の選択肢として,カテーテルによる心筋層内への注入と血管内への投与が挙げられるが,心筋梗塞2日後のマウスに,c -kit陽性心臓幹細胞を冠動脈経由で投与したところ,心筋層内投与に比べて細胞が梗塞巣に均一に分布し,治療効果も上回る可能性が示唆された20).大動物やヒトの心臓では局所注入と経血管投与による細胞分布の違いはさらに顕著となり,その簡便さと繰り返し治療の可能性も考慮すれば,血管内への投与が最も望ましいと思われる.第四に,どの細胞を使うべきかである.安全性を重視する観点から,不整脈原性のある骨格筋芽細胞は使いにくく,いまだ臨床応用されていないが人工多能性幹(iPS)細胞も,その造腫瘍性のために心不全治療への使用はきわめて困難である.心臓外の細胞が直接心臓再生に寄与するには,核の再プログラムを介した異分化が必要であるが,このプロセスには時間を要し効率も低い可能性がある.また,獲得された形質が長期に保持されるかも不明である.一方,心臓幹細胞は心臓の構成要素に分化するよう規定されていると考えられ,他臓器由来の細胞,ないしiPSなどの万能幹細胞を用いるよりも理にかなっている.その反面,心臓幹細胞を得るための心内膜生検は,骨髄穿刺などに比して侵襲が大きい.また治療に必要な細胞数を得るのに培養工程を要するため,例えば本人の初回発作時に保存した細胞を2回目以降に使うといったケースでなければ,急性期治療は難しい.ただし,実はこの培養プロセスにより,良質な細胞が選ばれている側面もある.すなわち,増殖能力の優れた「若い」幹細胞は老化した細胞よりも速く増えるため,一定期間後の培養皿は必然的に若い細胞で占められ,これが治療に用いられる.この骨髄由来細胞との違いが,c -kit陽性心臓幹細胞による治療では,症例間での効果の差が少ない結果につながったのかもしれない.細胞の種類に付随して,治療に必要な細胞数についてであるが,臨床的効果が同程度であれば,有害事象の発生リスクに鑑み,投与細胞数は少ないほうが望ましいであろう.心臓という密な組織内に大多数の細胞を注入しようとすれば,組織の傷害も無視できなくなる.最近の研究で,骨髄間葉系細胞と心臓幹細胞を直接比較検討したところ,心筋梗塞後2週間で免疫抑制下のブタにおいて,2億個のヒト骨髄間葉系細胞と,100万個のc -kit陽性ヒト心臓幹細胞とが,ほぼ同程度の治療効果を示した14).さらに後者は,臨床試験でもわずか100万個で優れた治療効果を示した17), 18)ことは注目に値する.Ⅶおわりに以上に述べたように,再生医療は心不全治療の切り札となるポテンシャルがある.その実施の低コストに加え,入院医療費の削減などによる医療経済へのメリットも期待されている.一方,各細胞の比較や長期予後の検討,さらに繰り返し治療の有効性の確立には,臨床試験の実施が不可欠である.細胞治療による恩恵を速やかに享受するためにも,企業をベースとした薬物治療や医療機器などの臨床試験と異なり,公的機関による積極的なサポートが求められるであろう.62Current Therapy 2013 Vol.31 No.4410