カレントテラピー 31-4 サンプル

カレントテラピー 31-4 サンプル page 26/30

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病態形成における臓器連関自治医科大学学長永井良三生体の細胞,組織,臓器(器官)は単独で機能しているわけではなく,相互に依存しつつ全体の機能を発揮している.生体の恒常性もこうしたシステム間の相互作用によ....

病態形成における臓器連関自治医科大学学長永井良三生体の細胞,組織,臓器(器官)は単独で機能しているわけではなく,相互に依存しつつ全体の機能を発揮している.生体の恒常性もこうしたシステム間の相互作用によるところが大きい.それは発生,分化,成長だけでなく,病態形成においても同様である.特に内分泌系,自律神経系,循環系,免疫系の役割は重要である.免疫細胞は炎症を引き起こすが,異物や病原体の侵入に対しては生体を防御する.循環系は絶えず変化する全身の代謝需要に応じて,臨機応変に各臓器への血流量を調整する.しかし動脈硬化あるいは心不全患者の調節セットポイントやフィードバック機構は,正常者とは異なる.レニン・アンジオテンシン(RA)系や交感神経系がこれに関与することはよく知られている.動脈硬化や心不全では間質にさまざまな細胞が浸潤し,三次元の組織構築が大きく変化する.免疫学的機序や機械的障害による腎臓病,肥満あるいは飽和脂肪酸を多量に摂取した際の脂肪組織やランゲルハンス島でも間質に大きな変化が生じ,実質細胞の機能が低下する.組織内に浸潤した炎症性マクロファージは生理機能を悪化させるが,マクロファージが存在しないと細胞の肥大や増殖が生じにくく,負荷適応能力は低下する.マクロファージを全身から除去した場合,あるいは心筋間質細胞の活性化を抑制した心臓は,圧負荷を加えると心不全に陥る.一方,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)では動脈硬化や心不全が多い.マウスでの検討では,心臓への圧負荷は中枢神経を介して腎集合管上皮細胞や血管内皮細胞を活性化し,腎臓からのサイトカインの分泌を促す.これは心筋保護作用のある抗炎症性マクロファージを増殖させる.一方,肝細胞の細胞内シグナルを活性化させると,交感神経求心路と迷走神経遠心路を介して膵β細胞が増殖する.近年,こうしたこれまで知られていなかった臓器連関が次々に解明されつつある.細胞特異的遺伝子ノックアウト技術や細胞分離装置の進歩から,臓器のなかにおける細胞間の複雑な相互作用が次々に明らかにされてきた.確かに分子生物学は生体を構成する要素の研究を飛躍的に発展させた.しかし生体システムの統合的な理解への道のりは遠い.このため臓器連関からの解析はますます重要になる.これによって,病気の理解はますます複雑化するが,多くの治療標的が明らかになるともいえる.こうした視点から,心不全の病態と治療戦略を考える時代が到来した.90Current Therapy 2013 Vol.31 No.4438