カレントテラピー 32-6 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.6 79Key words585光トポグラフィー検査の診断補助の役割群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学教授 福田正人高血圧や糖尿病の診療は血圧や血糖値という検査を指標に行われるが,うつ病をはじめとする精神疾患の診断は問診の情報に基づいて行われている.検査は除外診断の目的にとどまり,そのことが精神疾患の診断や治療における客観性や定量性の制約となっている.この現状を一歩前進させることが期待されているのが「光トポグラフィー検査」である.光トポグラフィー検査は,パルスオキシメータと同じ近赤外光を用いる検査で,近赤外(線)スペクトロスコピィ(near -infraredspectroscopy:NIRS,近赤外分光法)を原理としている.頭部について散乱光を用いると,頭表から2~3 cmの範囲の血液量(近似的には血流量)が測定できるので,大脳皮質の活動が捉えられる.脳機能画像検査としてのNIRSには,測定の対象が大脳皮質のみで空間分解能が2cm程度という制約がある反面で,非侵襲的で座位など自然な状況で検査ができる特徴がある.したがって脳機能を簡便に全体として捉える方法論であり,内科における超音波検査のような位置づけである.光トポグラフィーを用いて言語流暢性課題という3分程度の検査における脳活動を捉えると,健常者と比べてうつ病では前頭部の脳血流の増加が健常者より小さい.つまり,言語流暢性課題で前頭葉を活性化しようとしても賦活が十分に生じない.双極性障害では,前頭部の脳血流が増加するのが遅れてピークが後ろにずれており,前頭葉の働きがいわばスロー・スターターである.統合失調症では,前頭葉の脳血流増加のタイミングが非効率的となっている.うつ状態の患者を対象とした日本の7施設共同研究では,うつ病の74 .6%,双極性障害・統合失調症の85 . 5%のデータを正しく判別できた1).こうしたデータを背景に,光トポグラフィー検査は2009年より精神医療分野で唯一の先進医療「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」に認められ,さらにそこで確認された有用性に基づいて,2014年より「抑うつ症状の鑑別診断の補助に使用するもの」として保険適用されることになった.うつ病を診断できる臨床検査として期待が高いが,重要なことは検査名が示すように「鑑別診断の補助」と位置づけられている点である.精神疾患の診断は,問診による病歴の確認と現症の評価が基本であり,光トポグラフィー検査はそれを補助する役割にとどまることへの理解が重要である.入手しやすい解説として,『脳画像でみる精神疾患』(新興医学出版社,pp91- 110,2013)がある.参考文献1)Takizawa R, Fukuda M, Kawasaki S, et al :Neuroimaging-aided differential diagnosis of the depressive state.Neuroimage 85:498-507, 2014