カレントテラピー 32-6 サンプル

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10 Current Therapy 2014 Vol.32 No.6516NHKのテレビ番組である“クローズアップ現代”のウェブサイトの記載を見ると,その特徴を,不眠に悩む,職場で激しく落ち込むといった「うつ」の症状を示す一方で,自分を責めるのではなく上司のせいにする,休職中にも関わらず旅行には出かける…と紹介している.したがって,あえて定義をすれば,「現代型うつ病」とは,職場ではうつになるが自宅では元気という症状の状況依存性,うつに陥った責任を自分よりも会社や上司に帰するという他責性,休職を深刻に捉えていないという病者意識の希薄性を示す若年被雇用者の軽症抑うつ状態,である8).2 診断上述したように,日本語の「うつ病」自体,定義があいまいであるが,現在,日本うつ病学会で採用している診断基準は,DSM -Ⅳ2)の大うつ病のそれである.こちらは5つ以上の抑うつ症状が2週間以上持続し,しかも抑うつ気分や意欲低下などがほとんど1日中,ほとんど毎日存在することが前提となっている.したがって,「会社ではうつだが自宅では元気で趣味に没頭できる人」がこの診断基準を満たすことはない.むしろ,職場でのみ激しく落ち込むという特徴からは,適応障害の1型(抑うつ気分を伴うもの)というのが正式な診断名となることが多いであろう.その原因としては,①上司および同僚の対応や過大な仕事量など職場側の問題,②本人の適応能力,③仕事内容と本人との相性,が考えられる.適応障害の抑うつでも壮年期では自責に傾く症例が少なくないが,若年者で他責的になる場合がいわゆる「現代型うつ病」と言えよう.とはいえ,その背景には仕事上での思わぬ挫折に加え,会社からの見捨てられ感も窺われることが多い.3 鑑別診断「現代型うつ病」と一見似たような臨床特徴を有していても,明らかな「気分障害」に属する病態が存在する.なかには明らかに薬物療法が奏効するケースも少なくないため,臨床医はその見極めに留意すべきである.まず鑑別に挙げられるのが,双極スペクトラム9)の抑うつ状態である.なかでも,うつ状態の持続期間が短くて気分の変動が顕著なタイプは,典型的なうつ病の経過と異なるため,気まぐれな性格のせいではないかと誤解されやすい.特に,未熟型うつ病10)に代表される双極Ⅱ型の患者の一部は,復職のたびに抑うつに陥りながらも,保護的な環境に入ると軽躁状態を呈することがある.休職中に軽躁状態になった場合は,まさしく「現代型うつ病」の様相を呈し得る.一方,軽躁状態を呈さない反復性短期うつ病性障害の患者でも,毎月のように数日から2週間程度の抑うつ状態を繰り返すために,自分勝手であると誤解されやすい.さらに,自閉症スペクトラムに属する患者は,コミュニケーションが苦手で臨機応変な対応がとれないため,職場で不適応を起こしやすく,抑うつ状態に陥りがちであるが,その一方で週末は好きな趣味に没頭して元気であるということが起こり得る11).ちなみに,「現代型うつ病」は「非定型うつ病」との関連が指摘されることもあるが,DSM-Ⅳの「非定型の特徴」を採用する限りでは一線を画する.すなわち,「非定型」という用語は,あくまで大うつ病エピソードや気分変調症が診断された後に付加される特徴だからである.とはいえ,気分の反応性や対人関係での拒絶に対する過敏性といった特徴だけを取り上げると,「現代型うつ病」でもよく認められ,鉛様の麻痺や過眠も自己暗示的,現実逃避的な機制で生じ得るので,横断面の病像そのものには重なりがある.4 経過と予後経過や予後は,環境調整や心理的アプローチの成否にかかっている.適切な介入が行われれば速やかに改善するが,対応を誤ると年余にわたって遷延することもまれではない.5 治療通り一遍の病歴聴取で安易に「大うつ病」などと診断し,そのまま薬物療法のアルゴリズムに飛びつかないように注意すべきである.というのも薬物療法と一時的な休養,体調に合わせた日常生活の勧め,といった身体レベルのうつ病患者への定型的な対応が弊害になり得るからである.この場合にまず問題となるのは,薬物で治療される病気として認定され