カレントテラピー 32-6 サンプル

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Current Therapy 2014 Vol.32 No.6 11うつ病の病態・診断・治療517ていることで,それによって本人の責任が問われなくなる.さらに一時的な休養を勧められて,患者は思い通りにならない現実を棚上げする.その一方で負担にならないことはしてよいという治療者の言葉を文字通り受け止めて,旅行には出かけられることになる.その点では医師側の不十分な診断・説明が「現代型うつ病」の増加を助長している側面もある.逆に,少し話を聞いただけで,あるいは抗うつ薬を一通り試した後で,「現代型うつ病」と判断して突き放してはならない12).治療の第一歩は,患者に十分話させることである.大うつ病の診断基準に挙げられた症状の有無のみを尋ねるだけでは不十分である.どういう状況で症状が始まったのか,職場で落ち込むということであれば,どのような状況で落ち込むのか,そもそもどういういきさつで入社したのか,仕事の内容は自分に合っているのか,仕事は忙しくないかどうか,職場でのトラブルはなかったかどうか,上司の性格はどうか,職場の人間関係はどうか,などを詳しく尋ねていく.そのなかでもよく聞かれるのは上司との関係である.上司が厳しい,仕事のことを聞きづらい,ひどいことを言われた,一生懸命やっていても評価されない,などと述べられることもまれではなく,最終的には仕事での挫折体験を引きずっていることが明らかになる.この問題が出てきた時は,本人の話を共感的に傾聴する必要がある.帰宅後や休日の様子も必ず尋ねる.帰宅後は趣味に熱中し,休日は旅行やスポーツなどができている場合がある.本人の関心事に焦点を当てて,盛り上げていくと誇らしげに語ることも少なくない.食欲や睡眠に関して尋ねると,時に入眠障害は認められても食欲は問題のないことがほとんどである.こうした面接を踏まえて,明らかに職場と関連した「抑うつ状態」であり,そこで抱えている問題を解決しないことには,症状が続くことを伝える.そのうえで,職場のストレスがあっても,別な場面でうまく発散することで乗り切れるかどうか,また会社側との話し合いを望むかどうかを尋ねる.薬物療法は基本的に不要であり,処方するとしても対症療法にとどまる.しかし,患者に薬を飲んでいれば自然に良くなると思わせてはならない.「薬で良くなる」と保証してしまうと,治らないのは薬が合っていないせい,あるいは治療が悪いせいと医療者に攻撃を向けてくることもまれではないからである.職場にも多少の問題はありそうだが,本人の努力も必要であると,抑うつ状態の原因の一端を本人にも引き受けてもらうことが重要である.本人が望めば,職場との調整も進めていく.上司や人事部門の担当者にも来院してもらい,本人の職場での様子を聞いたうえで,会社側で改善できる点がないかどうかを本人ともよく話し合ってもらう.大切なことは,現場でのコミュニケーションを密にしてもらうことである.彼らはしばしば会社から見捨てられているという思いを抱いている.会社から十分なケアを受けていると思えば,他責的になることもない.職場での挫折体験がある場合には,名誉回復の機会を与えてもらい,自信を回復させることが症状の改善につながる.とはいえ,本人の希望をすべて受け入れることは現実的には難しいことも多く,治療的でもない.配置転換を含め,会社でできること,できないことをはっきり告げてもらう.会社側がそれなりの対応をしても,本人が満足せず過大な要求をしていると判断される場合には,もっと能力を活かせる職場に転職することも選択肢であると説明し,本人の決断を促す.通常は仕事を続けながら外来治療で十分なケースも少なくないが,本人の苦悩が強ければ短期間の休養を勧める.その間に本人の抱えている問題を整理し,一緒に解決法を考えていく.また,職場に戻りたくない気持ちが強いが,退職になっては困るといった葛藤状況にある患者で,ずるずると休職期間が遷延する場合も少なくないので,注意が必要である.Ⅳ おわりにうつ病概念の混乱と現代型うつ病の出現に関して述べてきたが,いずれも「うつ病」の定義が不明確なことと関連している.昨年のDSM -5 13)の刊行は,