カレントテラピー 32-7 サンプル

カレントテラピー 32-7 サンプル page 20/32

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50 Current Therapy 2014 Vol.32 No.7666でST上昇がないかを確認しST上昇を見逃さないようにする.ST上昇が出現する以前の超急性期の心電図変化としてT波の増高(hyperacute T)がみられるが,この時期での血行再建は心筋壊死を生じさせず救済できる可能性があるため,より早期の血行再建が重要となる.心筋梗塞でもST上昇がみられる症例は50%程度に過ぎず,40%はST 低下,T波の変化,脚ブロックなどの非特異的変化を示し,残りの10%は正常心電図であるとされる5).そのため,初療時の心電図のみでは診断は難しいことが多く過去の心電図との比較やニトログリセリン使用前後での比較などを行う.正常心電図でかつ以前と変化がないとしても安易にACSを否定してはならず,経時的変化をとらえるべく5?10分ごとの心電図検査を繰り返し行うべきである.ST上昇や異常Q波,陰性T波がみられる誘導からは虚血の局在診断ができる.虚血の局在によりそれぞれのリスクや生じ得る合併症を想定,予測することができる.代表的なものとしては,Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導でのST上昇は右冠動脈が責任病変であることが多く,右室梗塞を合併している可能性があるため右側胸部誘導(V3R, V4R)を記録する.またST 低下では局在診断はできないが,aVR誘導のST上昇を伴った広範囲誘導でのST低下は重症虚血(左主幹部や多枝病変)の可能性が高く,心不全や血行動態の破綻をきたすリスクも非常に高いため,冠動脈バイパス手術を含め,早期の血行再建を考慮する.ST変化はなくとも,胸部誘導に陰性U波がみられることがあり,これは前下行枝近位部の虚血を示唆する重要な所見である.2 心エコー検査ACSの心エコーでは,梗塞部位診断,心機能評価をまず行い,機械的合併症(心破裂による心嚢液貯留,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂による僧帽弁逆流)の有無を観察する.また他の胸痛をきたす疾患との鑑別に有用であり,急性大動脈解離(上行大動脈拡大,flap,大動脈弁逆流,心嚢液貯留),急性肺血栓塞栓症(右心系の拡大,左室の圧排像),急性心膜炎(壁運動異常のない心嚢液貯留)などを迅速に観察する.ACSの初期対応では,3~5分以内に評価を終え,再灌流を遅らせるようなことがあってはならない.3 血液生化学検査心筋壊死の生化学マーカーとしては,クレアチンキナーゼ(CK),CK -MB,ミオグロビン,心臓型脂肪酸結合蛋白(H -FABP)心筋トロポニンT およびI,ミオシン軽鎖などが挙げられる.心筋トロポニンは特に心筋壊死を鋭敏に反映し,心筋梗塞のuniversal definitionではトロポニンの上昇をもって心筋壊死,心筋梗塞の診断とするとしている6).しかしいずれの生化学マーカーも血中濃度が上昇するまでに時間がかかるため早期診断については有用とは言えず,注意が必要である.また検査結果が出るまでには一般的に20?30分はかかるため,この結果を待っていてはACSの迅速診断にはつながらない.特にST上昇型急性心筋梗塞では生化学マーカーは補助的なものであり,また生化学マーカーが陰性であってもACSの否定にはならない.そのためST上昇型急性心筋梗塞を疑ったら,検査結果を待つことなく冠動脈造影を行うべきである.4 胸部X線写真胸部X線写真は重症度評価や鑑別診断を行うためには有用な検査である.心不全の合併,胸水の有無など比較的容易に診断可能である.また鑑別すべき心血管救急疾患である急性大動脈解離では縦隔陰影の拡大や二重陰影,急性肺血栓塞栓症では肺動脈の遮断,区域性乏血などがみられる.しかし,これらが聴診や心エコー検査で十分評価可能である場合は,必ずしも必須ではない.Ⅲ ACSのリスク評価図に示したようにACSの治療方針はリスク評価に応じて決定される7).そのなかで最もリスクの高いものはST上昇型急性心筋梗塞であり,診断も容易なため直ちに再灌流治療を行うことの判断も迷うことはない.中~高リスクの症例については,早期に経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)を行うことで死亡,心筋梗塞のリス