カレントテラピー 33-10 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.10 77代替療法1021には有効性を示す臨床研究はまだない.2 精神症状PDの経過中には,うつ,不眠,幻覚・妄想などの精神病症状や行動異常など,さまざまな精神症状が出現する.これら精神症状は患者・介護者のQOLに悪影響であるとともに,患者の認知機能,生命予後にも影響を与えるため,適切な対応が求められる.1)幻覚・妄想精神症状として,抗PD薬で治療を受けている患者のうち30%に幻覚が,10%に妄想が出現すると報告されているが,抗PD薬を投与されていない患者でも精神症状は出現する.『パーキンソン病治療ガイドライン2011』によれば,幻覚や妄想の薬物療法として,①薬剤追加後に発症,悪化した場合は追加薬を止める,②精神症状をきたしやすい薬剤(抗コリン薬,アマンタジン,セレギリン,ドパミンアゴニストなど)から順に減量,中止する,③抗PD薬の減量だけでは精神症状を抑えきれない場合や,運動症状が悪化して抗PD薬が減量できない場合は非定型抗精神病薬を用いること,となっている.しかし,非定型抗精神病薬であっても,PD症状の悪化をまねく可能性はある.精神症状に対する漢方治療として,抑ヨク肝カン散サンが有効であるとする報告がある.Kawanabeらは,パーキンソン症候群の患者14例〔PD 7例,認知症を伴うPD(PD with dementia)7例〕に抑肝散を4週間投与し,その前後でNeuropsychiatric Inventory(NPI)を比較した.その結果,全例において幻覚に関する下位項目が有意に改善していた10).また,Hatanoらは,PD患者25例に抑肝散を12週間投与し,精神症状をNPIで,PDの重症度をUPDRS partⅢ(UPDRS - Ⅲ)で評価し,治療前後で比較した.その結果,抑肝散はUPDRSスコアに影響を与えることなく,NPI総スコアと下位項目(幻覚,不安,無力)を改善させた11).精神症状に対する抑肝散の作用機序として,セロトニン5-HT1A受容体刺激作用や,間接的な5-HT2A受容体抑制作用,グルタミン酸放出抑制作用や,グルタミン酸トランスポーターを介したグルタミン酸クリアランスの改善作用などが判明している12).川鍋らは,幻覚とwearing -off 現象を呈するPD患者に対して,煎じ薬の抑肝散を投与したところ,幻覚の消失とともにwearing -off 現象も改善した症例2例を報告した13).抑肝散によるwearing-off 現象の改善の機序は定かではないが,抑肝散には向精神薬では得られない付加的効果が期待できることから,今後の症例の蓄積が重要と考えられた.一方,PD治療中に出現した幻覚に対して柴サイ胡コ加カ竜リュウ骨コツ牡ボ蛎レイ湯トウが有効であったという1例報告がある14).柴胡加竜骨牡蛎湯は,不眠,精神不安,イライラなどの精神症状に頻用される漢方薬である.PDの幻覚に対して柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であったとする報告はまだこの1例のみであるが,アルツハイマー病など認知症性疾患のbehavior and psychological symptomsof dementia(BPSD)に対して有効とする報告もあり15),神経変性疾患の精神症状に広く応用が可能と考えられる.2)睡眠障害睡眠障害もまた,PD患者に出現する頻度の高い非運動症状のひとつである.PDにおける睡眠障害の原因としては,①PDの運動症状に続発した睡眠障害,②PD治療薬の影響による睡眠障害,③レム期睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder:RBD)や下肢静止不能症候群(restless legs syndrome:RLS)など他の睡眠障害の合併などが挙げられる.PDの運動症状による睡眠障害は,筋のこわばりや筋痛,寡動による寝返りの減少などと関連しており,入眠障害や途中覚醒をきたす.佐々木らは,下肢筋のこわばりや疼痛のため睡眠障害をきたしたPD患者10例に対して芍シャク薬ヤク甘カン草ゾウ湯トウ2.5gを眠前に投与したところ,全例で筋痛が緩和し,睡眠障害が改善したと報告した16).一方,RBDは病理学的にsynucleinopathyに分類される疾患(PD,Lewy小体型認知症,多系統萎縮症)と共存することが多いが,PDにRBDが合併する割合は30~64%と報告されている.RBDの漢方治療として,Shinnoらは,中高齢の症例3例(全例パーキンソニズムなし)に対して抑肝散を単独で,またはクロナゼパムとの併用で投与し,全例でRBDの改善を認めたと報告した17).これ以外にもLewy小体型認知症と共存したRBDの一例報告や対照群を伴わない前後比較研究など,エビデンスレベルの低い報告が中心ではあるが,RBDに対する