カレントテラピー 33-12 サンプル

カレントテラピー 33-12 サンプル page 22/40

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 33-12 サンプル の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 33-12 サンプル

Current Therapy 2015 Vol.33 No.12 77代替療法1219木防已湯は心筋活動電位に対して,活動電位振幅減少,活動電位持続時間延長,最大立ち上がり速度抑制を示し,抗不整脈作用を表した6).木防已湯,ならびに防已によるICa電流増加は慢性心不全に対して最重要な強心作用を表す.この作用は主としてβ受容体を介したものであるが,逆に血管平滑筋では強力な弛緩作用を表す.しかしながら,単一フィトケミカル,シノメニンにはβ刺激作用がなく,INa, ICa, IKrec,IK1の膜イオン電流を抑制する.細胞内Na+流入阻害によっても細胞内Ca2+濃度降下を導き,抗不整脈作用だけでなく,心筋保護作用も十分期待できる14),15).INa電流抑制とともに,Ca2+過負荷を制御し不整脈発生を抑制する.多種の含有成分による多面性の薬理作用は,強心剤の普遍的副作用である細胞内Ca2+過負荷の発生を防御でき,不整脈惹起を抑制すると推測される.また,木防已湯の血管弛緩作用は血管内皮依存性と非依存性(平滑筋作用)から成り立ち,多種の作用機序を介して薬理作用を表す.これらは心不全の前・後負荷軽減に大きく貢献している.つまり,弛緩状態の血管を収縮させ,緊張状態の血管では弛緩する.血管収縮・弛緩作用のバランスを取り,調整していることを意味する.この効果は生体において血行循環の維持に非常に有益であると思われる.また,この特徴的な血管緊張調整作用は血圧や腎血流の維持など,生体にとって重要な心循環動態の維持に役立つ.防已自体も種々の成分を含有し,木防已湯はさらに4種類の生薬の多成分複合剤である.生薬間,多種成分(フィトケミカル)間の複雑な薬理学的相互作用による統合的薬理効果は,特に多数の臓器が同時に機能低下している高齢者(老人症候群)に対して,より薬理学的有効性が高いと考えられている.さらに,木防已湯を構成する桂枝は内因性カテコラミン遊離活性があり,血圧上昇作用が認められている.また,石膏(CaSO4)は単独で摘出心臓標本の心拍動亢進,持続時間延長,筋収縮力増強を示し,一方,石膏徐去した木防已湯は薬理学的効力が極弱することも判明している10),11).さらに高血圧に有効との報告もある16),17).木防已湯には利尿作用もあり,血中電解質の変化が少なく,現代薬にみられる副作用(電解質喪失)が表れにくいことが特徴である2).また,強力な利尿作用をもつ五苓散は浮腫,ネフローゼ,二日酔い,心臓病などに適用される.構成生薬は,沢タク瀉シャ,蒼ソウ朮ジュツ,猪チョ苓レイ,茯ブク苓リョウ,桂ケイ皮ヒである.沢瀉のフィトケミカル,アリソールAモノアセテートやアリソールBはアクアポリン1- 3受容体のmRNAを誘導し,強い利尿作用を表す18).一般的に漢方薬による利尿作用は合目的で,体水分量の多い時のみ有効であることから,健常状態ではあまり奏効しない19).したがって,前・後負荷軽減に適応され,慢性心不全の代替療法として,十分に役割を果たすことができる.Ⅶ おわりに医療は高齢化社会のなか,「治す」医療から,「予防する」医療に転換しつつ,環境要因と健康,遺伝,個別化から,ゲノムコホート研究が実施されようとしている.また個々別々の薬剤処方,治療,予防法,保健指導が求められている.本来,医療は現代薬中心の医療が主体である.現代薬に対する非適合性(アレルギー,副作用,致死率など)から代替・補完医療の必要性が増している.循環器領域の治療にも漢方薬を併用して,より治療効果を上げ,生活の質(QOL)を向上させることができる可能性を示唆した.慢性心不全の治療で,元来の治療薬での効果が不十分である場合や副作用の問題などに,木防已湯や他の漢方薬の効果が十分に期待される.また,高齢者では利尿剤などの現代薬における投与量の調節(減量)を強いられるケースでも,木防已湯を含めた漢方薬が代替・相補医療として役割を果たせると期待されている20).漢方薬は多成分複合剤であるため,多くの利点を有しており,発症予防効果,小児・婦人・高齢者への特異性,ウィルス変異株への有効性などは注目に値する8),9),12),13).また,未病に関して,西洋医学では疾病と診断されないので薬物処方されないが,漢方薬や健康食品・特定保健用食品は代替・補完医療として,有効な臨床効果が期待できる.さら