カレントテラピー 33-3 サンプル

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82 Current Therapy 2015 Vol.33 No.3300ワルファリンの人種差大阪大学大学院医学系研究科循環器内科/先進心血管治療学寄附講座准教授 奥山裕司心房細動に伴う心原性塞栓症の予防において,ワルファリンは十分な強度で使用されてこなかった.ワルファリン内服によって大出血の頻度,特に頭蓋内出血が非内服群に比べて増加してしまうことが主な理由であった.本稿ではワルファリン内服時の頭蓋内出血,脳梗塞について人種差,特にアジア人種の特徴について解説したい.アジア人種では,ワルファリン内服中の頭蓋内出血の頻度が白人に比べて高く,それに伴う死亡率も高いことが知られている.北カリフォルニアにおいて,2万人弱の心房細動患者を3年強観察した研究によると,全体ではワルファリン群において0.47/100人・年の頭蓋内出血が認められ,非内服群の3.12倍に達した(非内服群は0.15/100人・年).非内服群では頭蓋内出血の発症率は人種間でほとんど差は認められなかった(0.12~0.16/人・年).年齢,性別,主な合併疾患の補正後に,ワルファリン内服によってどの程度頭蓋内出血が増えるかを人種別に検討したところ,白人での増加分を1とした場合,アフリカ系とヒスパニック系は約2.1,アジア人は4.1という結果であった.また,大出血および頭蓋内出血に関わるであろうPT -INRが3を超える時間的割合やTTR(time in therapeutic range, 2-3)については人種間で差がなかった.すなわち同程度の強度のワルファリン治療を行っている状況では,アジア人は他人種よりも頭蓋内出血の発症率が高い.この傾向は新規経口抗凝固薬の大規模臨床試験のワルファリン群におけるアジア人と非アジア人の頭蓋内出血の報告からも読み取れる(アジア人は非アジア人の2.4倍の発症率).また,北カリフォルニアの患者群では,ワルファリン内服による脳梗塞予防効果の人種間の検討も行われている.その結果,非ワルファリン内服群の脳梗塞2.11/人・年に対してワルファリン内服群(TTR=54.5%)では1.66/人・年と,22%の減少効果が認められた.白人では十分な症例数,イベント数があり,全体と同じくワルファリン内服によって脳梗塞は21%減少するという結果が得られている.一方,アジア人では,ワルファリン内服群で非内服群に比べ脳梗塞が35%減少していたが,症例数,イベント数とも少なく,統計的に有意差に達しなかった(現在までのところ,アジア人を対象に,非内服群を対照として,良質なワルファリン治療の心房細動における脳梗塞予防効果を十分な症例数で検討した試験はない).以上をまとめると,アジア人ではワルファリンによる脳梗塞予防効果は他人種とほぼ同等程度はあるだろうと推測される一方,頭蓋内出血は他人種,特に白人に比べ2~4倍程度発生すると考えられる.心房細動の診断と治療の最近の動向―進むべきか,退くべきか