カレントテラピー 33-4 サンプル

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52 Current Therapy 2015 Vol.33 No.4370疾患発症のトリガーとなる可能性も指摘されており,③慢性不眠症は精神疾患の予測因子もしくは促進因子であることも推測されている(図1).本稿は,精神疾患に伴う不眠症を慢性不眠障害として,他の不眠分類と診断上同一視することの妥当性を上記側面から評価・考察する.Ⅱ ストレス脆弱性の指標としての不眠症状ストレスが不眠を惹起する過程に関しては,Spielman ら3)が提唱した慢性不眠成立モデルによる説明がわかりやすい(図2).慢性不眠の成立には誘発因子,維持因子,準備因子の3 因子がかかわる.誘発因子の主なものは心理ストレスであり,これが高まり,不眠閾値を超えると急性不眠が生じる.その後,心理ストレスが低下し不眠閾値を下回ると不眠は解消するが,不適切な睡眠習慣や睡眠環境などの維持因子が存在すると,不眠は解消されず慢性不眠へと移行する.維持因子は,以前より存在するもののみならず,不眠発症後に新たに構築されたものの影響も無視できず,良く眠るために新たに用意した寝室環境や寝酒,臥床時間の過度な延長などがこれに相当する.準備因子は本来備わる,不眠を生じやすい傾向に該当し,主なものとして人格特性が報告されている.特に,神経症人格特性(neuroticism)と不眠との関連性は多く報告されており4),5),準備因子の中核をなすと考えられている.神経症人格特性は,不安,抑うつ,罪責感,敵意などの陰性感情の抱きやすさを特徴とする人格特性であり,精神疾患発症の準備(ストレス脆弱性)因子としても注目されている6).なかでもストレス関連障害,不安障害および気分障害との関連を指摘する報告が多い7).ストレスはさまざまな精神疾患の誘発因子として働くが,なかでも心的外傷後ストレス障害(posttraumaticstress disorder:PTSD),適応障害,不安障害においては特に発症・遷延病理との関連が深い.これらの疾患では不眠症状を随伴する率が高いが,随伴する不眠のPSG所見は疾患特異的な所見に乏しい8).主に,総睡眠時間の減少,睡眠効率の低下,中途覚醒の増加,深睡眠(slow wave sleep:SWS)の減少などが報告されているが,研究間での一致率がきわめて低く,原発性不眠症におけるPSG所見と酷似している8).疾患特異的な睡眠関連症状も乏しいが,PTSDでは外傷体験に関連した悪夢と,悪夢からの中途覚醒が指摘されている9).PTSDにおけるPSG所見でも研究間の一致率が低いのは同様であるが,rapideye movement(REM)睡眠の分断およびREM睡眠からの中途覚醒を,臨床症状とリンクした疾患特異的所見と考える研究者もいる.しかし近年のメタ解析の結果,これらのPSG所見との関連は否定的で,むしろREM密度の増加が有意とされている10).このREM密度増加が,PTSDの疾患特異的な所見であるかはまだ議論を要するが,睡眠中の夢関連脳活動の活発化を示唆する可能性も想像される.また,REM睡眠中の脳活動は,エピソード記憶の固定化処理にかかわる可能性が推測されていることからも11),REM密度の増加はPTSD特異的もしくは状態像を反映した生物学的指標である可能性を秘めている.他方で,不眠に対する認知行動療法(cognitive-behavioral treatmentfor insomnia:CBT-Ⅰ)は原発性不眠症のみならず,PTSDを含めたこれらの精神疾患に併存する不眠にも広く有効性を示すが,原疾患の中核症状への治療効精神疾患慢性不眠症①②③ストレス精神疾患固有不眠症慢性不眠症精神疾患図1 精神疾患と慢性不眠症との関係性