カレントテラピー 33-4 サンプル

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54 Current Therapy 2015 Vol.33 No.4372延長,総睡眠時間の短縮,睡眠効率の低下であり,睡眠構造上の病態特異性は示されていない19).他方で,少数例研究ではあるが,SWS出現量と陰性症状および解体症状の有意な負の相関が報告されている20).SWSは恒常性維持に寄与するのみならず,学習・記憶の促進にもかかわる重要な睡眠状態であり,SWSの減少は統合失調症の認知機能障害の進行を促進する要素かもしれない.Ⅳ 先行する慢性不眠と精神疾患発症との関連性不眠は,さまざまな精神疾患発症の際に先行して出現することが多く,ストレス脆弱性を鋭敏に反映する症状である.このため,先行する慢性不眠が精神疾患の発症リスクを高める可能性が多数検討されている.近年のメタ解析で,慢性不眠は2~3倍の確率で大うつ病発症リスクを高めることが示された21).また,慢性不眠症患者の縦断研究で,後に大うつ病を発症する慢性不眠患者は,大うつ病を発症する以前よりREM潜時が短縮する傾向を示すことが示されている22).さらに不安障害,アルコール・薬物依存症等も,慢性不眠が発症のリスク要因となることが示唆されている23).慢性不眠は,視床下部-下垂体-副腎皮質(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA)系の機能異常と関連している.HPA系は概日時計の制御を受け,入眠後に活動が最低となり,覚醒に向けて徐々に増加する規則的な日内変動を示す.コルチゾルの血中濃度はHPA系の活動を反映し,本来夜間に低値となるはずであるが,慢性不眠症ではこの夜間の生理的低下が減衰し,高コルチゾル血症を示す24).大うつ病や不安障害でもHPA系の過活動が病理に深く関連していることが指摘されており25),慢性不眠症とこれら精神疾患との病態連続性が示唆される.Ⅴ おわりに─慢性不眠症と精神疾患─不眠は精神疾患に併存するのか,それとも合併するのか.さらに,不眠は精神疾患を発症する温床なのか.予防医学的見地からすると,慢性不眠を早期発見し治療を行うことで未然に精神疾患の発症を防ぐことが可能であるならば,これらは早期に解決すべき疑問である.大うつ病は他の疾患に比べ,慢性不眠が中核病態の形成に強く関与し,そして相互促進的に作用する可能性が高い.これに対してストレス性障害や不安障害では,慢性不眠は併存病態としての色彩が濃く,ストレス応答としての表現型の差とも考えられる.他方で,治療においては精神疾患に対する治療手段と,不眠にフォーカスした治療手段を併用するメリットが示されている.特に,不眠症に対するCBT - Ⅰの併用により,併存する不眠症状を緩和し,残遺不眠を有効に治療する可能性が,さまざまな精神疾患で報告されている26).しかし,CBT - Ⅰの併用により大うつ病を含め精神疾患の中核症状の改善を報告した研究が少ないことは大変興味深い.同一の疾患においても,恐らく病期によって不眠の病態が変化し,原疾患との関係性も変化するのであろう.本稿では詳しく述べなかったが,不眠の原因として閉塞性睡眠時無呼吸症候群,むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害などの存在も無視できず,これらは多くの精神疾患有病率が高まることも考慮する必要がある27).さらに治療薬により惹起される薬剤性不眠の合併の可能性も存在するため28),実際の臨床の場ではより複雑な病態を形成している可能性を留意する必要性がある.本分野の研究の進歩は,精神疾患の予防,治療促進を目指すうえで重要な役割を果たすに違いない.参考文献1)American Academy of Sleep Medicine:Insomnia. InternationalClassification of Sleep Disorders 3rd ed. pp19-48, Illinois,20142)American Academy of Sleep Medicine:Insomnia Due toMental Disorder. The International Classification of SleepDisorders 2nd ed. pp15-17, Illinois, 20053)Spielman AJ, Caruso LS, Glovinsky PB:A behavioral perspectiveon insomnia treatment. Psychiatr Clin North Am10:541-553, 19874)Harvey CJ, Gehrman P, Espie CA:Who is predisposed toinsomnia:a review of familial aggregation, stress-reactivity,