カレントテラピー 33-4 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.4 87Key words405オレキシンの作用金沢大学大学院医薬保健学総合研究科分子神経科学・統合生理学分野教授 櫻井 武オレキシンは1998年に同定された神経ペプチドであり,視床下部外側野に散在するニューロン群によって産生される.二つのアイソペプチドからなる.オレキシンAは33アミノ酸残基のペプチドでN末端側の前半に2対のジスルフィド結合を有する.オレキシンBは28アミノ酸残基の直鎖状のペプチドである.これらは共通の前駆体から生成され,二つのGタンパク質共役型受容体,オレキシン1受容体(OX1R)およびオレキシン2受容体(OX2R)に作用する.OX1RはオレキシンAに対して親和性が高く,オレキシンBに対しては50倍程度親和性が低い.一方,OX2RはオレキシンAとBに対してほぼ等しい親和性をもっている.一般にどちらの受容体を介する作用も受容体発現ニューロンに対して強力かつ持続的な興奮性作用を示す.オレキシン産生ニューロンは視床下部の摂食中枢とされる視床下部外側野を中心にその近傍の視床下部脳弓周囲野,そして視床下部後部に存在する.メラニン凝集ホルモン(melanin-concentrating hormone:MCH)をつくるニューロンも同じ領域に存在するが両者は別々の集団である.一方,ダイノルフィンやニューロテンシンはオレキシン産生ニューロンに共存している.オレキシン産生ニューロンはグルタミン酸作動性ニューロンでもある.オレキシン産生ニューロンの数はマウスで数千個,ヒトで70,000個ほどといわれている.これらの少数のニューロンから伸びる軸索は,数多く分枝しつつきわめて広範な領域に投射している.特に,脳幹のモノアミン・コリン作動性神経核には豊富な投射がみられ,主にこれらのニューロンの制御を介してその生理作用を惹起すると考えられる.オレキシンニューロンは大脳辺縁系や視索前野からの神経性入力のほか,グルコースやレプチンによる液性制御も受けている.オレキシンはまず,摂食行動の制御因子のひとつとして注目を浴びた.その後,オレキシン産生ニューロンの変性・脱落が睡眠障害ナルコレプシーの病態生理と深くかかわっていることが明らかになり,この物質が覚醒の維持に重要な役割を担っていることが示された.ナルコレプシー患者における髄液中のオレキシン濃度の顕著な低下が報告され,また死後脳においてオレキシン産生ニューロンが消失していることが示されている.また,オレキシンと報酬系や自律神経系・内分泌系との関連も示唆されており,情動や体内時計,エネルギー恒常性を統合した情報をもとに,適切な睡眠・覚醒状態をサポートする機能をもっている.オレキシンを脳室内投与した結果みられる摂食量の亢進,交感神経系の興奮,HPA軸の活性化,ドーパミンニューロンの興奮などは,すべて覚醒に応じて引き起こされる現象,あるいは覚醒が引き起こされた結果ととらえることも可能でもある.前述の入出力様式よりオレキシンは主に脳幹に出力し,覚醒や情動・自律神経系応答を制御していると考えられる.