カレントテラピー 33-5 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.5 21445ル含有餌を与え,ヒトの動脈硬化病変に酷似した血管病変が形成されることを初めて報告した.この結果により動脈硬化の成因にはコレステロールが関与することが示唆され,1961 年のFramingham研究により総コレステロール(total cholesterol:TC)が冠動脈疾患の危険因子であることがヒトにおいても示された.以降,動脈硬化と脂質異常症の関連がさまざまな臨床試験により明らかになってきた.わが国においてもNIPPON DATA80,CIRCSなどの研究から諸外国と同様に総コレステロールやLDL -C,トリグリセリド(triglyceride:TG)が高いほど,またNIPPON DATA90などの研究からHDL -Cが低いほど冠動脈疾患の発症率が高いことが示されている.Ⅲ 動脈硬化のメカニズムでは,脂質代謝の異常がどのように動脈硬化に関与するのだろうか.動脈は内膜・中膜・外膜の3層からなるが,粥状動脈硬化とは脂質と線維成分がさまざまな要因により血管内膜へ蓄積した状態を指す.粥状硬化の原因は古くから議論の的となっており,古典的にはVirchowの脂質浸潤説とRokitanskyの血栓原説が唱えられた.その後,1976年にRossらが障害反応仮説を提唱した.この仮説はいくたびか改定されているが,動脈硬化を説明するメカニズムの基礎として現在広く受け入れられている1).LDLは血中を流れ,末梢組織へコレステロールを運搬する役目を担っている.高LDL -C血症が持続し血中にLDL 粒子が増えると,この粒子は血管内皮下へと侵入する.内皮下にもぐりこんだLDLは細胞外マトリクスのプロテオグリカンに結合するため,内皮下に留まることとなる.このLDLは活性酸素やミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)などによって酸化を受けて変性する.この状態を酸化LDLと呼び,細胞障害性を有することが知られている.すなわち,血管壁中膜平滑筋細胞を増殖させ,血管内皮細胞上の接着分子の発現を誘導し,血管拡張物質である一酸化窒素(NO)産生を低下させる.さらにT細胞を活性化しT細胞におけるIL - 2受容体の発現を促進する.これらの作用が相互に関連しあい動脈硬化を発症・進展させる要因となる.このように酸化LDLは血管障害性が強く,生体にとって速やかに処理する必要がある.その役目を果たすのが末梢血中を流れている単球である.単球は酸化LDL が存在する周囲の血管内皮細胞上の発現増加した接着因子と反応し,血管内皮にまず接着する.その後内皮下にもぐりこみ,macrophage colony stimulatingfactor(M -CSF)とcolony -stimulating factor - 1receptor(c -fms)の働きによりマクロファージへと分化する.マクロファージはその表面にSR -A(CD 204),CD36,MARCOやLOX- 1(OLR- 1)といったスカベンジャー受容体と呼ばれる酸化LDLを取り込むための構造を有しており,スカベンジャー受容体を介して酸化LDLを細胞内へと吸収して処理している.しかし,大量に酸化LDLを取り込み,コレステロールエステルを蓄積したマクロファージは巨大化し,泡沫細胞と呼ばれる細胞へと変化する.泡沫細胞は徐々に集簇し,脂肪線状(fatty streak)を形成する.近年,神経誘導因子のひとつであるnetrin - 1とその受容体であるUNC 5aを介したシグナルにより,マクロファージが血管外へと流出できずに粥腫(プラーク)に留まることがマクロファージの集積に関与することも報告されている2).さらにTリンパ球,特にT helper - 1(Th - 1)細胞が集まりIFN- γやtumor necrosis factor(TNF)の分泌を介して炎症反応が惹起されプラークが形成される.プラークの内部をみると脂質が蓄積したコアのまわりを血管平滑筋細胞や線維性被膜からなるfibrous capが覆っている構造となる.プラークの辺縁部分は細胞成分が多く脆弱であり,プラーク辺縁部分は単球を侵入させる土台となる.このような連鎖反応が繰り返し起こりコレステロールの蓄積や血管平滑筋細胞の増殖,細胞外線維組織の増生,石灰化などが加わることで進行した粥状動脈硬化病変が形成される.泡沫細胞はメタロプロテアーゼなどのサイトカインを放出し線維性被膜を破壊したり,組織因子を分泌し血栓形成を惹起したりするため,泡沫細胞の多いプラークはより急性冠症候群を起こしやすいことが知られている.またマクロファージ内に取り込まれたコレステロール