カレントテラピー 33-6 サンプル

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86 Current Therapy 2015 Vol.33 No.6622高齢者の咳東邦大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座教授 海老原 覚高齢者が食事中や食事後に,よく湿性の咳をしていることがある.また,寝たきりで胃瘻の患者などでも経管栄養注入後に咳が続くことがある.そのような典型例でなくても,要介護高齢者が日中突然連続的に咳を繰り返す場面に遭遇したりすることがよくある.通常は発熱などもなく,咽頭痛や鼻水などもない(訴えないだけかもしれないが).そのような高齢者を診察した場合は,可能性のひとつとして嚥下障害・誤嚥による咳を考える必要がある.重要なことは高齢者の誤嚥による咳の場合,咳をしている間はまだましなことである.本当に怖いのは,誤嚥をしているのに咳をしなくなった状態である.統計によると認知症高齢者は施設入所後1年以内に約80%で摂食・嚥下障害が起き,その後に誤嚥性肺炎を起こして亡くなっている.「脳の衰え→嚥下機能障害→肺炎→死亡」というのが大半の高齢者の自然経過と考えられるが,ここで嚥下障害が生じてから肺炎が起こるまでの間に約300日の時間差があることが報告されている.人の気道防御反射には嚥下反射と咳反射の二つがあり,たとえ嚥下反射が障害されて気道内に食物などが入り込んでも,咳反射が有効に働けば気道外に異物が喀出でき問題ない.ところが嚥下反射と咳反射の両方が障害されていれば,まさに入れ食い状態で肺炎が発症しやすい.実は通常の加齢において二つの気道防御反射のうち,まず嚥下反射が障害され,その後咳反射が障害されることがわかってきた.つまり,嚥下障害が生じてから肺炎が起こるまでの約300日間は,嚥下反射が障害され咳反射がまだ残っている期間であり,この期間に高齢者の食事後の湿性咳嗽が観察されている.咳が出るときは咳衝動(Urge-to-Cough)という感覚が先行して大脳皮質に伝わり,その咳衝動が咳反射を調節している.つまり咳反射も大脳皮質の制御を受けている.われわれの研究により,人間は歳を取るにしたがって脳の機能が衰えていくとまず嚥下反射が障害されて,そしてさらなる脳機能の衰えにより咳衝動が弱くなり,その咳衝動がほとんどなくなったときに咳反射が障害されて肺炎になるということがわかってきた.Dementia(認知機能障害)→Dysphagia(嚥下機能障害)→Dystussia(咳嗽不全)→Atussia(咳嗽消失)→Pneumonia(肺炎)→Death(死)というのが,多くの高齢者の自然経過と思われる.慢性咳嗽―しつこい咳に潜む疾患