カレントテラピー 33-6 サンプル

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Current Therapy 2015 Vol.33 No.6 87Key words623女性の咳東京女子医科大学内科学第一講座准教授 近藤光子咳嗽は日常臨床において頻度の高い主訴のひとつであるが,国際的な大規模調査から,夜間咳嗽および乾性咳嗽は女性に多いことが知られている.慢性咳嗽にその傾向が強く,アトピー咳嗽やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による咳嗽,また原因不明な特発性咳嗽も女性に多い.さらに咳嗽による尿失禁が起こりやすいなど,咳嗽が女性の生活の質(QOL)に与える影響は大きい.このような咳嗽における性差は思春期前の小児ではみられないが,成人女性,閉経後の女性ではよりその傾向が強い.咳感受性試験においても性差が存在する.Fujimuraによれば,カプサイシンを用いた咳感受性試験では,その閾値は,女性は男性よりも約4倍も低値であった.またクエン酸,酒石酸や冷気吸入などそのほかの刺激においても同様である.慢性咳嗽を専門とするクリニックでの24時間の咳モニタリングを行った研究では,時間あたりの咳の回数は,男性の9.4回に対して,女性は16.6回と有意に多く,特に夜間にその傾向が強かった.また,クエン酸による咳嗽閾値は年齢や性差に影響されたが,肺機能や気道過敏性とは関連がなかったと報告されている.それでは,なぜ女性は咳をしやすいのであろうか.解剖学的性差,性ホルモンによる違いが影響すると考えられるが,現在までのところメカニズムは十分解明されていない.まず,咳受容体であるAδ線維やC線維への性ホルモンによる直接的な影響,および炎症細胞を介する間接的な影響が考えられる.エストロゲンはカプサイシン受容体であるTRPV1の活性化や感受性亢進をもたらし,TRPV1を高発現しているC線維にエストロゲン受容体も高発現していると報告されている.また,痛覚神経に対する性差の研究から女性では知覚中枢の亢進が指摘されている.最近の研究ではクエン酸による咳感受性の強さと,「咳をしたい」という感覚との関連性が女性は男性より強く,呼吸困難感とも共通する経路の存在が示唆されている.以上の点を踏まえると,鎮咳薬の開発時における臨床研究では性差を考慮した咳嗽の評価が必要であると考えられる.最後に,女性の咳嗽の原因として多い重要な呼吸器疾患の存在をまず疑うことはいうまでもない.肺非結核性抗酸菌症,非特異性間質性肺炎などが代表的な疾患であるが,胸部単純X線写真で異常がはっきりしない場合でも,咳が持続する場合,適宜胸部CTなどの原因精査を行うことも必要である.