カレントテラピー 34-3 サンプル

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66 Current Therapy 2016 Vol.34 No.3272アルツハイマー博士がアルツハイマー病を1911年に世に紹介してから100年を経て,私たちはようやく認知症に対する一筋の光明を見出しつつある.しかし,今日現在,根治薬の開発は進んでいるかもしれないが,世に出てはいない.認知症の診断法の開発は進み,早期診断が可能となった.今では,認知症になる前からのリスク診断もかなりの精度で可能であるということだが,当事者にとって重要なのは認知症と診断されてからのことである.いくら診断法が進んだとはいえ,その後の生活に希望がなければ「認知症,早期診断,早期絶望」なのである.いまだに多くの医療機関で,認知症の診断後のフォロー体制が十分であるといえないのは,悲しい現実である.しかし,認知症の薬物療法以外にも,介護保険の導入前後からさまざまなケア方法や非薬物療法の研究が進んできたことは,新薬の承認と同等の光明であるといえる.1997年に認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が制度化され,2001年にナオミ・フェイル1)が提唱する「バリデーション」が,2005年にはトム・キッドウッド2)による「パーソンセンタードケア」が,そして2014年にイヴ・ジネストら3)による「ユマニチュード」が日本に紹介された.グループホームは,認知症の人が穏やかに生活をするためには環境が重要であり,少人数の家庭的な雰囲気が望ましいということから全国に広まった.そして,認知症の人の個々の声に耳を傾け,内なる声にも関心を寄せる「バリデーション」,『認知症の』人ではなく,認知症をもった『人』であり,たとえ認知症であっても病のひとつをもっているにすぎない『個人』の尊厳を大切にしてケアを考えていくという理念による「パーソンセンタードケア」は,認知症の人の見方を大きく変えた.さらに「ユマニチュード」は介護の理論書であるが,ケア方法の具体的な提案のいくつかは,認知症のケアの考え方にも影響している.このようなケアにかかわる発想の転換が,認知症の症状の一部を鎮静化させ,ケアの質を改善しつつある.Ⅱ 医療の乏しさから生まれた「認知症の人と家族の会」「認知症の人と家族の会」(旧,呆け老人をかかえる家族の会)は,1980年1月に結成してから2015年で35周年を迎えた.結成当時の社会の状況は,1973年の老人福祉法にもとづく老人医療費無料化を皮切りに,1978年にショートステイ,1979年にデイサービスが制度化,1983年老人保健法の施行により老人医療費有料化といった,老人医療および福祉の制度が大きく動いた時代であった.この時代において認知症は「呆け」,「痴呆」と呼ばれ,病気でも症候群でもなく,老化現象としてとらえられることが多く,病院に受診しても何の手当てもない状況であった.在宅で看きれず,施設は措置制度により入所待ちでなかなか入れず,入院すれば精神科病棟でベッドや車椅子,薬などによって抑制され廃人になった.在宅でも病院でも施設でも,認知症のケアを模索していた時代だった.「そんななかで,家族の訴えに耳を傾け,生活上の困難について心配して聞いてくれる医師がいたことが当時の家族にとってどんなに有難いことだったかしれない」と本会の髙見国生代表理事は当時を振り返り語っている.現・本会顧問の三宅貴夫医師や早川一光医師による,「医師として話を聞いても今は何もできないが,こうして家族同士話し合い,知恵の出しあいをすれば解決の糸口が見つかるのではないか」という提案からはじまった家族のつどいが,今は全国全都道府県で年間3,500回以上開催され,延べ44,000人以上が参加するまでになった.本会が行うつどいは,認知症介護家族のつどいだけではなく,認知症の本人のつどい,若年認知症家族のつどい,男性介護者のつどい,看取り後のつどいなどさまざまな形態で拡がり,毎日どこかでつどいが開催されている.つどいは本会会員限定ではなく,誰でも参加することができる.参加した介護者は,「私ひとりじゃない」,「私よりももっとつらい人がいるのがわかって,自分はまだ幸せと思える」,「具体的なアドバイスがもらえてよかった」,「医師や看護師に聞きにくいことでも聞ける」,「聞いてもらえた