カレントテラピー 34-6 サンプル

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56 Current Therapy 2016 Vol.34 No.6566には心血管イベントを抑制できなかったとする報告もあり2),真に心血管イベントを抑制し得る生活習慣,減塩指導のあり方が問われている.画一的な食生活の改善に十分な効果が認められないひとつの理由に,食塩に対する血圧反応性は固定されているものではなく,変化し得る,すなわち食塩感受性が食塩非感受性に変わり得ること3)が考えられる.患者の病態は変化することから,適切な指導,治療を病態の変化に応じて行う必要があるといえる.Ⅲ 食塩による血圧上昇メカニズム腎機能の低下は食塩感受性高血圧を引き起こすという臨床的検討から腎臓との関連が長く研究され図1,2のような圧利尿曲線と食塩との関連の解析が行われている.糸球体機能の低下のほかにもアンジオテンシンⅡ,酸化ストレスといった体液性因子が尿細管のNaチャネルを制御し,Na 排泄を低下させることで食塩感受性高血圧を引き起こす4)~6).腎臓以外では最近間質の浸透圧が高まると,リンパ管新生が亢進し,間質の浸透圧を正常化するが,食塩負荷時にこの経路に異常があると浸透圧が高く保たれ,血管での一酸化窒素(NO)の産生が抑制され食塩負荷時に血圧が上昇することが報告された7).2 型糖尿病は食塩感受性を呈することが多い.その原因としてインスリンの関与がいわれている.近位尿細管では,インスリンはインスリン受容体基質(IRS)- 2を介してNHE 3,Na+-K+-ATPase,Na+-HCO3-共輸送体を活性化する8).糖代謝におけるインスリン抵抗性はIRS - 1を介するといわれており,IRS - 2は糖尿病患者でも正常にインスリンに反応することから,本メカニズムはインスリン抵抗性患者における食塩感受性高血圧を説明するデータといえる.遺伝子の網羅的解析からも食塩感受性に関連する遺伝子候補が挙げられている.遺伝子研究の発端は,単一遺伝子異常疾患のLiddle症候群やGordon症候群の遺伝子解析であった.近年,より頻度の多い二次性高血圧の原発性アルドステロン症患者のKチャネル遺伝子異常が報告された9).さらに本態性高血圧患者を対象とし,食塩感受性との関連としてはアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子,上皮Naチャネル(ENaC)やENaCの制御因子であるserum/glucocorticoid regulated kinase 1(SGK1)の一塩基多型(SNP)10)~12)の関連が報告されている.このほかのNaチャネル関連遺伝子として,neural precursorcell -expressed developmentally downregulated4-like(NEDD4 L )のSNP13),14),Na+/HCO3-共輸送体の遺伝子変異15)といった報告が欧米からされている.さらに,近年の大規模なゲノム解析結果であるGWAS研究において高血圧発症に寄与する候補遺伝子が報告されているが,食塩感受性との関連は現在のところ不明である.日本人を対象とした検討では利尿薬に対する感受性と遺伝子変異が報告されており,特にNa+-Cl-共輸送体(NCC)やβ3アドレナリン受容体の変異が関係するといわれている16).同様な検討から,カルシウム拮抗薬やレニン・アンジ排泄量(=摂取量)Na減塩食正常塩食増塩食正常腎血管狭窄アルドステロン負荷部分的腎摘除血圧図1 各種モデル動物の圧利尿曲線動物実験からNaを排泄するために必要な血圧値が異なることがわかる.すなわち腎動脈を狭窄したモデルでは腎臓内血圧は低いため,正常の腎臓と同じだけのNaを排泄するためにはより全身血圧を高くする必要がある.その結果,相関曲線は右にシフトする.一方,アルドステロン投与,あるいは腎臓の一部を切除した動物モデルではアルドステロンによるNaの再吸収が亢進する,あるいは腎臓が小さくNaの排泄ができないため,高い血圧を利用してNaを排泄するが,Na摂取量が少なければ血圧を上げる必要がないため,相関曲線の傾きが緩やかになる.