カレントテラピー 35-12 サンプル

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86 Current Therapy 2017 Vol.35 No.121192Ⅰ はじめにわが国では,2050年に高齢者人口が35.7%の超高齢社会を迎え,心筋梗塞,脳梗塞などの脳心血管イベントの発症が今後さらに激増することが予測されている.わが国の脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)による死亡者は年間約13万人で,死亡原因の第4位を占めており,脳卒中罹患者数は272万人と推定されている.また,厚生労働省班研究によると,脳卒中の患者数は2020年頃に最大となり,287万5千人に達すると予想されているが,今後も進行することが想定されている人口構造の高齢化に伴い,患者数はますます増加していくと考えられる.脳卒中はいずれの病型であってもいったん発症すると永続的な後遺症が残存する可能性が高く,また生命予後を短縮することから,その発症の予防法を確立していくことがきわめて重要である.本稿では,脳梗塞の発症・再発予防における脂質異常症治療の意義について概説する.Ⅱ 脳卒中危険因子としての脂質異常症欧米人を対象とした疫学研究のメタ解析において,総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値と脳梗塞は有意に正相関したという報告がみられる.また,Asia Pacific Cohort Studies Collaborationによれば,総コレステロール値と脳卒中は欧米人同様にアジア人においても相関し,総コレステロール値が38.7mg/dL(1nmol/L)増加すると脳梗塞の発症は25%増加し,致死的な脳出血は20%減少することが示された1).さらに久山町研究によれば,性・年齢調整した検討において,LDLコレステロール値と脳梗塞発症の相対危険との間に有意な関連は認めなかった.しかし,脳梗塞を病型別にみると,アテローム血栓性脳梗塞およ内藤裕之*1・細見直永*2*1 広島大学大学院脳神経内科学*2 広島大学大学院脳神経内科学准教授脳卒中診療の最近の動向─ 新しいエビデンスとトピックス脳梗塞はその病型により脂質異常症との関係が異なると考えられている.また,脳梗塞の臨床病型の頻度は,日本人を含む東アジア人と欧米人では異なることが知られており,脳梗塞合併例における脂質異常症のコントロールを考える際にも,欧米のエビデンスをそのまま用いることはできない.脂質異常症の治療薬であるスタチンによる脳心血管イベント抑制効果は,LDL コレステロール低下以外の多面的作用の影響が示唆されている.PCSK 9 阻害薬は,新規の機序でのLDLコレステロール低下作用が確立されており注目されているが,脳心血管イベント抑制効果についてはまだ十分に検証されていない.本稿では,現状で明らかとなっているエビデンスとわが国におけるエビデンスを基に,脳梗塞発症・再発予防における脂質異常症治療の意義について概説する.a b s t r a c tコレステロール治療薬と脳梗塞の予防(スタチンとPCSK9阻害薬)