カレントテラピー 35-5 サンプル

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58 Current Therapy 2017 Vol.35 No.5462Ⅰ はじめに双極性障害の年齢標準化有病率は0.7%で,疾病負荷の指標である障害調整生命年(disability-adjustedlife year:DALY)は,精神疾患と物質使用障害のなかでは,大うつ病性障害,不安障害,統合失調症,アルコール使用障害に次いで第5位である1).双極性障害患者の約60%の初発病相がうつ病相であり2),双極Ⅰ型の患者は調査期間の9%で軽躁や躁症状を呈し3),双極Ⅱ型の患者は調査期間の1%で軽躁症状を呈したと報告されている4).よって,双極性障害と早期段階で診断することが難しい症例も多く(特に,単極性うつ病との鑑別が困難),うつ病患者の長期追跡調査によると,うつ病と診断された患者の約20%が後に双極性障害に診断が変更となったと報告されている5).このような状況のなか,早期診断と適切な治療導入を促進する双極性障害の診断補助マーカーの確立は,急務の課題である.本稿では,血液における双極性障害の生物学的指標について,メタ解析研究を中心に紹介する.Ⅱ 神経栄養因子(ニューロトロフィン)神経栄養因子は,神経細胞の分化・生存,シナプス形成,シナプスの可塑性などに関わるタンパク質の総称で,哺乳類の脳では,nerve growth factor(NGF),brain-derived neurotrophic factor(BDNF), neurotrophin3(NT- 3), neurotrophin 4(NT- 4)が同定されている6).Raoらは7),血清NGFと双極性障害の関連研究のメタ解析を行った(5論文,双極性障害患者342名と健常者282名).結果,双極性障害患者群の血清NGFレベルは健常者群と比較して有意な違いを認めなかったが,治療を受けていない双極性障害患者を使用した研究だけを用いて解析したところ(4論文,双極性障害患者293名と健常者246名),患者群で有意に高かったと報告した.Fernandesらは8),血中BDNFと双極性障害の関連研究のメタ解析を行った(52論文,双極性障害患者3,339名と健常者3,142名).*1 徳島大学医学部医歯薬学研究部精神医学分野准教授*2 徳島大学医学部医歯薬学研究部精神医学分野教授うつ疾患の診断と鑑別─双極性障害を中心に双極性障害の生物学的マーカー沼田周助*1・大森哲郎*2双極性障害患者の約60%は初発病相が躁病相ではなくうつ病相であり,多くの患者は発病後もうつ病相の期間が長いことから,双極性障害は,早期に診断することが難しい疾患のひとつであり,初診時にうつ病と診断した患者が,後に双極性障害へと診断が変更になるケースは多い.早期発見と治療導入を促進する双極性障害の診断補助マーカーの確立は,急務の課題であるが,客観的な双極性障害の血液診断補助マーカーはいまだ確立されていない.本稿では,血液における双極性障害の生物学的指標について,メタ解析研究を中心に紹介する.