カレントテラピー 35-5 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.5 81Key words485ソフトバイポーラー京都大学医学部附属病院精神科神経科助教 挾間雅章近年,双極性障害の拡大をもたらしたのが「ソフトバイポーラー」の概念である.Kraepelinが確立した「躁うつ病」は,躁状態やうつ状態に加えて,気質レベルの気分変動も含めた包括的な概念であった.20世紀前半はKraepelinによる一元論が優勢であったが,1950~1960年代の遺伝研究により,単極性うつ病と双極性障害をはっきりと区別する二元論が主流となった.1980年に発行されたDSM -Ⅲでは単極性/双極性の二元論が採用され,現在のDSM- 5でも踏襲されている.一方,単極性うつ病と診断された患者のなかには,双極性障害の家族歴がある,抗うつ薬を服用すると(軽)躁が誘発される,気質レベルの軽躁を呈する時期があるなど,双極性の特徴を有するものが一定の割合を占める.こうした患者は,後に双極性障害に移行していく可能性が高い.このような単極性うつ病に潜む双極性に注目したAkiskalは,従来の双極性障害の概念を拡張するものとして双極スペクトラムを提唱し1),躁症状が軽躁にとどまるものをソフトバイポーラー(双極)スペクトラムと称した2).そのなかには,双極Ⅱ型障害だけでなく,抗うつ薬により(軽)躁が誘発される反復性うつ病や,発揚気質,循環気質など気質レベルの気分変動も含まれている.その後,GhaemiやAngstも独自の双極スペクトラム概念を提唱した.それぞれの主張に相違はあるものの,単極性と双極性の連続性を認め,気分障害を一元論的にとらえるKraepelinへの回帰という点で共通している.軽躁と判断する閾値を下げることで双極スペクトラムの範囲は拡大し,双極スペクトラムが人口の4~5%を占めるという研究や,大うつ病性障害の半数近くを占めると主張する研究も発表されている.ソフトバイポーラーをめぐる議論は,隠れた双極性障害に対する臨床家の認識を高め,軽微な双極性への注意を喚起した.また,抗うつ薬による気分の不安定化やラピッドサイクラー化のリスクを指摘し,安易な抗うつ薬の処方に対して警鐘を鳴らした.他方,軽躁の拡大解釈による双極性障害の過剰診断と,それに伴う気分安定薬や抗精神病薬の過剰投与のおそれがあり,米国では小児における双極性障害の過剰診断が問題視された.今後は,ソフトバイポーラーの根拠である軽躁をどのように定義するのが臨床上有益であるか,慎重に検討していく必要がある.参考文献1)Akiskal HS:The bipolar spectrum:New concepts in classification and diagnosis. in:Grinspoon L (ed.). PsychiatryUpdate:The American Psychiatric Association Annual Review. American Psychiatric Press, Washington, DC. 271-292,19832)Akiskal HS, Mallya GM:Criteria for the“ soft” bipolar spectrum:treatment implications. Psychopharmacol Bull 23:68-73, 1987