カレントテラピー 35-5 サンプル

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8 Current Therapy 2017 Vol.35 No.5412Ⅰ はじめに従来,「躁うつ病」とは躁病あるいはうつ病を繰り返す病気として定義されていた1).すなわち,うつ病は躁うつ病の1亜型として考えられていた.しかし,1980年,米国精神医学会診断基準であるDiagnosticand Statistical Manual of Mental Disorders(DSM-Ⅲ)は躁病とうつ病の両方を繰り返す型(双極性障害)を大うつ病性障害と別の疾患として分類した.さらに1994年改訂のDSM - Ⅳは双極性障害をⅠ型とⅡ型の亜型に大きく2分した2).Ⅰ型では躁病エピソード(軽躁病エピソードの出現も可)と大うつ病エピソードが出現し,Ⅱ型では軽躁病エピソードと大うつ病エピソードが出現する,と定義した.双極性障害と大うつ病性障害を発症早期から明確に区別して診断できると理想的であるが,実際には発症から数年は両者を区別することはしばしば困難である.理由は双極性障害の約2 / 3が大うつ病エピソードで発症することと,うつ病の症状から両疾患を区別することが難しいからである.しかし,鑑別が難しいからといって昔の「躁うつ病」の疾患概念に戻ることは治療的に望ましくない.2000年以降に大規模な臨床試験が多数行われ,薬効のエビデンスが蓄積された.その結果,双極性障害の治療法は大幅に変更となり,特にそのうつ病エピソードの推奨治療は大うつ病性障害の治療法とは全く異なるものとなった.したがって,双極性障害の診断学を精緻なものとして進歩させることがこの問題を克服するために必要なことである.本稿では双極性障害と大うつ病性障害の病態の違いと新しい鑑別診断法について最近の研究を中心に紹介したい.*1 東京医科大学精神医学分野主任教授*2 東京医科大学精神医学分野講師*3 東京医科大学精神医学分野助教うつ疾患の診断と鑑別─双極性障害を中心に双極性障害の病態と診断井上 猛*1・高江洲義和*2・作田慶輔*3双極性障害と大うつ病性障害の大うつ病エピソードに対する治療,長期予防療法は全く異なることから,両者を早期に確実に鑑別診断することは精神科臨床では非常に重要な課題である.適正な診断と治療が遅れることは双極性障害の予後の悪化につながり,患者の人生,幸福に悪影響を及ぼす.過去の躁・軽躁病相の存在を精緻に見つけだすこと,大うつ病エピソードに混在する躁症状(混合性うつ病)を見逃さず臨床的意義を適正に評価すること,躁・軽躁病相以外の臨床的特徴から双極性障害を疑うきっかけをつかむこと,などが早期適正診断の糸口につながる.最近,より客観的かつ特異的な双極性障害の病態生理である概日リズム障害が注目され,診断と治療への応用が期待されている.