カレントテラピー 35-8 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.8 49763動脈,肺静脈,気管支処理など現在の手術の方式と大きくは変わらない方法(1期的手術)を用いて右下葉切除術を施行した.術後肺炎で術後7日目に患者は死亡しているが,病理解剖で気管支断端はきれいに治癒していたとのことである.MumfordとRobinsonは1914年に死亡率が高い1期的手術について,「ときどき成功したからといって,それが選択すべき方法とは限らない」と論文に記している4).この時代にはまだ1期的手術は成功率が高くはなかったと考えられる.Daviesは1916年,手術中に自分の右第1指を傷つけ,敗血症になった.右腕切断は逃れたが右腕の自由は制限されて外科医をやめた.当時Daviesによる肺がんに対する肺葉切除の報告はあまり注目を浴びなかった.肺がんはまだまれな病気であったため,あまり肺がんに対する肺切除がなされなかったからとの記述が海外の教科書に見られる.Daviesの論文は一読に値するので,若い先生方には是非読んでいただきたい.その後,前述した1933年4月5日にGrahamによる左上葉肺がんに対する左肺全摘術が行われた5).当初は左上葉切除術を行う予定であったが,術中判断で左肺全摘術とした.そのときのGrahamの記述に以下のように記されている.「開胸時に腫瘍を触知した.左上葉の腫瘍は左下葉気管支に浸潤していると判断した.そのため完全切除のためには左肺全摘が必要であった.また分葉が悪く,左上葉切除は技術的に大変困難と判断せざるを得なかった.私には患者は根治性を最優先してほしいと考えるだろうという確信があったため,左肺全摘術を遂行することとした」現在にも通じる術中判断であり,印象深い文章である.また当時から気管支断端瘻は重篤な合併症であり,気管支閉鎖についても多くの考察がなされた.Grahamの手術の2カ月後に,Reinhoffは気管支軟骨による「スプリングのような開こうとする力」を減弱するために軟骨に切れ目を入れて気管支断端を閉鎖する手術を行っている6).この方法は現在は行われていないが,気管支断端における「力」について外科医が思慮を巡らせることは現在にも通ずる.肺がんに対する右肺全摘術も,この年にOverholtにより初めて行われた7).またArchibaldは同年,肺がん手術の開胸時に切除不可能と判断した場合に閉胸する「試験開胸」という概念を初めて提唱している8).第二次世界大戦の時代に胸部外科の技術,術後管理も洗練された.1947年にPrice-Thomasによる気管支カルチノイドに対する右上葉スリーブ切除術が最初に行われ報告された9).患者は空軍パイロットであり,スリーブ切除でなければパイロットに復帰することができなかったであろうと考察されている.Ⅲ 縮小切除(limited resection)ChurchillとBelseyによって1939年に初めて行われた区域切除が舌区切除である(肺がんに対する手術ではないが)10).1960~1970年にかけて肺がんに対する根治術としてlimited resection(区域切除または楔状切除)が肺葉切除の代わりになる可能性の報告が散見されるようになる(Le Roux, Shilds, Steeleら).Jensikが1973年に区域切除は肺がんにおいて適切な術式であると述べている11).しかしながら1995年に発表されたNorth American Lung Cancer Study Groupの研究,すなわちT1N0の非小細胞肺がん患者で,limited resectionを行われた群では肺葉切除を行われた群に比べて75%の再発率の増加と30%の死亡率の増加を認めた結果を報告してからは12),現在に至るまで肺葉切除が標準術式となっている.本邦の試験である肺野末梢小型非小細胞肺がんに対する肺葉切除と縮小切除(区域切除)の比較第Ⅲ相試験(JCOG0802/WJOG4607L)の結果が新たな知見をもたらす可能性があり,この試験の結果が待たれる.Ⅳ 肺切除における手術器具胸部外科手術においては手術器具の進歩も重要な役割を果たしてきた.手術器具の進歩,特に自動縫合器の開発,進歩により開胸創の大きさは小さくなり,胸腔鏡手術やロボット手術が可能になっている.自動縫合器は1908年にハンガリーで開発された.その後,1940年代に旧ソビエトにおいて自動縫合器の研究が発展した.現在世界中で広く使われている手術用自動縫