カレントテラピー 35-8 サンプル

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70 Current Therapy 2017 Vol.35 No.8784これらの副作用や後遺症は多岐にわたるが,消化器系(口内炎,嘔気嘔吐,下痢,食欲不振),骨髄抑制,肝障害,腎障害,神経系(末梢神経障害,麻痺性イレウス),呼吸器系(間質性肺炎,気管支痙攣,しゃっくり),心筋梗塞,皮膚(かゆみ,皮疹,にきび様発疹,手足症候群,脱毛,爪の変形)などがある.Ⅲ 肺がん治療における漢方薬の必要性肺がんの治療は通常長期間に及ぶため,患者は身体的・心理的・経済的・社会的に大きな負担を強いられる.こうした患者のサポートで重要なのは,食欲・睡眠・排便・排尿などの植物神経機能の回復による栄養・心理・意欲の維持であり,そのために漢方はきわめて有用である.肺がんに対しては通常強力な攻撃的治療が行われるが,患者はその副作用の辛さのために,がん治療を途中で断念することが多い.しかし漢方薬により副作用が緩和されると,予定通りにがん治療を継続することが可能となる.例えば抗がん剤による末梢神経障害は,漢方薬の予防的投与により抑制することができ,さらに末梢神経障害が完成していても,適切な漢方薬や鍼灸治療によりしびれが軽快し,QOLの高い生活が可能となる.肺がん患者が呈する病態の対処法はある程度パターン化できる.本稿では,それぞれの病態に対する「定番処方」を示すが,漢方診療に慣れていない医師は,まず「定番処方」を行い,それが奏効しない場合やより大きな効果を期待したい場合には,がん患者の治療に習熟した漢方診療医に紹介することをお勧めする.Ⅳ 肺がん患者の呈する基本的病態とその対処法がん患者の多くに普遍的にみられる病態である「癌がん証しょう」,「腎じん虚きょ」,「?お血けつ」,「冷え」の対処法について解説する.これらの病態の認識とその対処法を知ることは,治療の副作用を軽減し患者のQOLを高めるために有用である.1 「癌証」を改善する補剤がん患者は,がん自体および治療による,全身倦怠,食欲不振,尿利異常,便通異常,不眠,不安,抑うつ,多汗,口渇,痛み,しびれ,浮腫,皮膚炎などの多彩な症状によって,元気を失っている.そのため患者のQOLは著しく低下し,治療効果が十分得られない.この状態は「がんに伴う生体システムの失調」と解されるが,筆者はこれを「癌証」と呼んでいる.癌証では,個々の臓器が個別に異常を起こすのではなく,生体活動の中枢である神経・免疫・内分泌系の機能不全の結果,同時多発的に多彩な心身の異常が起こるのである.この場合,まずこれらの中枢に作用する漢方薬である補剤を用いると,さまざまな症状が相前後して改善する.その後に個別症状に対して,それぞれに応じた治療を行う.つまり癌患者は多彩で複雑な病態を呈しているが,癌証の是正と個別症状の治療を行えばよい.癌証に対する特効薬は「補剤」と呼ばれる一群の漢方薬である.補剤は,不足する「気」を補い巡らせる(人参,黄耆)に加え,不足する「血」を補い巡らせる(当帰,地黄,川?),滞った過剰な「水」を巡らせ排出する(朮,茯苓)に加え,各補剤を特徴づけるいくつかの生薬から構成されている.肺がん患者に頻用される人参養栄湯は,さらに遠おん志じや五ご味み子しなど,呼吸器系に作用する生薬を含有している.三大補剤(補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯)は,がん患者の気力と体力を回復させるためにきわめて重要な漢方薬群であるが,原発性・転移性の肺がん患者では人参養栄湯が有効な場合が多い.補剤には免疫細胞の活性化を介する間接的な抗腫瘍作用があり,患者によってはがんの劇的な縮小や消滅が観察される.また基礎研究として,補剤はマクロファージやNK細胞の活性化を介してがんの転移を抑制すると報告されている7).2 「腎虚」を改善する補腎剤がん患者の多くは,漢方医学的な「腎」の働きが