カレントテラピー 35-8 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.8 83Key words797LC-SCRUM-Japan兵庫県立がんセンター呼吸器内科部長 里内美弥子近年の非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子異常の発見とそれに対する分子標的薬剤開発のスピードには目をみはるものがある.2012年2月にRET融合遺伝子が非小細胞肺癌の新たなドライバー遺伝子として日本および米国の3つの研究グループから同時に報告された.Kohnoらはこの報告のなかで319例の検討で1.9%に認められたことと,RETチロシンキナーゼを含むマルチキナーゼ阻害剤であるバンデタニブで効果が得られる可能性を示した.この頃には,次々に報告されるこのような希少なドライバー遺伝子異常に対する薬剤開発をどのように実施するのかが大きな問題と考えられていた.そこで,RET融合遺伝子をスクリーニングして,その治療薬の開発治験を行うことを目的として,LC -SCRUM -Japanが設立され,ALK,RET,ROS1の3つの融合遺伝子をスクリーニングし,ここで見つかったRET融合遺伝子陽性肺癌症例をバンデタニブの第Ⅱ相試験(LURET試験)に登録するシステムが構築された.これはRET融合遺伝子発見からわずか約1年後のことであった.LURET試験はすでに奏効率53%という良好な結果を報告しており,承認申請に向けた準備が進行中である.ROS1融合遺伝子陽性肺癌に対するクリゾチニブの第Ⅱ相試験が東アジア4 カ国で実施され,本邦からは本スクリーニングでROS1陽性と判明した症例が組み入れられたが,奏効率69.2%,無増悪生存期間中央値13.4カ月の良好な成績が報告されており,これらの結果をもとに,2017年5月にクリゾチニブがROS1融合遺伝子陽性肺癌に適応拡大された.ROS1融合遺伝子陽性肺癌に対するクリゾチニブ治療のコンパニオン診断は,LC -SCRUM -Japanで用いられたOncoGuide AmoyDx ROS1融合遺伝子検出キットであり,LC-SCRUM-Japanは希少肺癌の診断法の開発でも重要な役割を果たしている.また,LC -SCRUM -Japanは2013年10月から上記3つの融合遺伝子が陰性であった症例に対して,次世代シークエンサーパネルを用いた複数の遺伝子異常の検出も行っており,BRAF,MET,HER2などに対する治療薬の開発治験と紐付けて,その症例登録に寄与し,BRAF遺伝子変異肺癌に対するダブラフェニブ+トラメチニブが本邦での承認申請中になっているなど,治療薬の臨床導入,診断法の確立に貢献している.2015年からは小細胞肺癌や扁平上皮癌を対象とした研究も開始され,遺伝子スクリーニングと開発治験のプロジェクトは現在も進行中である.さらに,免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子となるバイオマーカーを開発する研究として,PD -L1免疫染色と全エクソンシークエンスを行う付随研究(LC -SCRUM -IBIS)が2017年2月から開始された.LC -SCRUM -Japanは「遺伝子異常のスクリーニングを全国規模で行うことにより,希少頻度の遺伝子異常をもつ肺癌の患者さんをみつけだし,その治療薬を届けること」を目的に設立されたが,治療薬開発にとどまらず,バイオマーカー開発,診断法の確立や臨床導入への取り組みも進めている.LC -SCRUM -Japanは今後も肺癌に対するprecision medicineの実現に中心的な役割を果たしていくことが期待される.