カレントテラピー 35-9 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.9 59873Ⅰ はじめに2015年1月20日,オバマ大統領は一般教書演説のなかで,「精密医療」(Precision Medicine)を進めていくと述べた.この「精密医療」とは,米国のNationalInstitutes of Health(NIH)によれば,「各個人の遺伝子情報,環境要因,生活習慣などに基づいて,疾病予防と治療法を確立する医療のことである.個人差をあまり考えず,平均的な人に予防や治療を施す,すなわちひとつのやり方がみんなに当てはまる(“one -size-fits -all”)というやり方とは対照的なもの」なのである1).「精密医療」こそ,医療経済的観点から最も費用対効果のよい医療であることは容易に想像できる.この「精密医療」のなかで,遺伝子情報に基づくゲノム医療は大きな要素となっている.医療経済の視点を踏まえた乳癌ゲノム医療の現状を,生殖細胞系列(germ -line)と体細胞系列(somatic)の2つの観点から取り上げて述べてみたい.Ⅱ 生殖細胞系列のゲノム医療乳癌において生殖細胞系列のゲノム医療の代表的なものが,BRCA1/ 2 変異陽性の診断や診断された後の医療だろう.BRCA1 遺伝子は,1994年に米国に留学中の日本人研究者によって同定され,次いで翌年にBRCA2 が同定された2),3).当時はやっと癌の原因がわかるようになったと非常に話題になり,その後実臨床にも用いられるようになった.一般の人の乳癌卵巣癌罹患の生涯リスクは,それぞれ12%,1.5%であるのに対し4),BRCA1/2 変異キャリアの乳癌罹患の生涯リスクは56~84%であり,卵巣癌に関しては,BRCA1 変異キャリアでは36~63%,BRCA2 変異キャ*1 聖路加国際病院乳腺外科研究員*2 聖路加国際病院乳腺外科部長乳癌ゲノム医療最前線─ 臨床応用はどこまで進んだか医療経済の視点を踏まえた乳癌ゲノム医療中川千鶴子*1・山内英子*2費用対効果が高い医療として,遺伝子情報などに基づいた「精密医療」が挙げられる.精密医療に貢献する,生殖細胞系列と体細胞系列の2つのゲノム医療を医療経済の視点を踏まえて述べてみたい.生殖細胞系列ゲノム医療としては,BRCA 遺伝子検査,予防的手術が考えられる.予防的切除術がサーベイランスより費用対効果がよいという日本の研究も報告されている.また,BRCA変異陽性乳癌に,olaparibが有効とのデータも報告された.遺伝子検査がコンパニオン診断となるが,日本では,いずれも保険適用になってはいない.体細胞系列ゲノム医療としては,今後はがんクリニカルシークエンス等も使われるようになるが,臨床ですでに用いられているOncotypeDX Rに関し,費用対効果が優れているという日本の研究も存在するが,保険適用になってはいない.ゲノム医療はその浸透のためにも,医療経済の視点が大切である.