カレントテラピー 35-9 サンプル

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78 Current Therapy 2017 Vol.35 No.9892乳癌ゲノム医療最前線─ 臨床応用はどこまで進んだかリスク低減手術(RRM, RRSO)京都大学医学部附属病院乳腺外科助教 髙田正泰BRCA1/2 遺伝子に変異を有する遺伝性乳癌卵巣癌症候群では,乳癌または卵巣癌の生涯発症リスクが特に高い.乳癌の生涯発症リスクはBRCA1 で55~70%,BRCA2 では45~70%,卵巣癌の生涯発症リスクはBRCA1 で40%ほど,BRCA2 では15%ほどと報告されている.乳癌・卵巣癌の発症リスクを低減する方法として現状で最も効果的なものは外科的予防切除,リスク低減手術である.BRCA1/2遺伝子に病的変異を認める症例におけるリスク低減手術として,乳房切除(risk-reducingmastectomy:RRM)あるいは卵巣卵管切除(risk-reducing bilateral salpingo-oophorectomy:RRSO)が推奨されている.BRCA 以外の遺伝子変異(PALB2 , CHEK2 , ATM など)を有する高リスク群に対しては,現状で確立されたガイドラインはなく,“家族歴等個別のリスクに応じて検討すべき”とされている.BRCA1/ 2 遺伝子に病的意義不明な変異を有する症例についても個別のリスクに応じて対応を検討する.未発症BRCA 変異キャリアでは,RRMにより乳癌発症リスクが90%以上減少すると報告されている.また,再建を考慮する場合には,皮膚温存(skin-sparing mastectomy:SSM)あるいは乳頭乳輪温存乳房切除(nipple-sparingmastectomy:NSM)が選択される.NSMでは乳頭内および乳頭下での乳腺組織の残存リスクがあるが,NSMを施行された未発症BRCA変異キャリア150例の後ろ向き検討では,約33カ月の観察期間で術後乳癌発症は1例のみであった.さらに長期にわたる観察が必要だが,現状ではNSM/SSMはRRMの術式として許容されると考えられている.未発症BRCA 変異キャリアでは,RRSOにより80%ほどの卵巣癌発症リスクの減少が,さらに70%ほどの死亡リスクの減少が報告されている.RRSOを行うタイミングは,BRCA1変異キャリアでは,出産後35~40歳くらいまでに,BRCA2 では40~45歳くらいまでに行うことが推奨されている.また,RRSOによる乳癌予防効果については,議論のあるところである.リスク低減手術としてのRRM, RRSOは,いずれもわが国では保険適用外であり,現状では行うことは困難である.今後,学会等の働きかけにより高リスク症例に対する予防法の選択肢が広がることが期待される.