カレントテラピー 36-11 サンプル

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76 Current Therapy 2018 Vol.36 No.111116Ⅰ はじめにヒトは血管と共に老いると言われており,動脈硬化はヒトが生きて行くうえで避けて通れない病態である.さらに,動脈硬化を基に発症する心筋梗塞,脳梗塞といった動脈硬化性疾患は,日本において死因の第二位を占めており,一度発症すると健康寿命を大きく損なう病気である.動脈硬化性疾患発症を抑制するために,高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病の治療と管理が行われているが,必ずしも有効に疾患発症を抑制できていない1).そういった社会背景のなか,2017年に,動脈硬化を促進させる血中の悪玉コレステロールを高度に低下させる作用のあるproprotein convertase subtilisin/kexin type 9 inhibitor(PCSK9I)を13,000人を超える患者に投与した介入研究であるFOURIER trialの結果が報告された2).血中の悪玉コレステロール値はPCSK9I投与群で59%低下し,心血管死/イベント発症率は,placebo群と比し優位に低下した(ハザード比0.85)ことから,改めて血中悪玉コレステロール低下療法の重要性が確認された.同時に,PCSK9I投与による極端な悪玉コレステロール低下が長期間続いた際にどのような合併症が生じ得るかについての課題も浮き彫りとなった.同じく2017年には,6,500人を超える心筋梗塞後の患者に完全ヒト型抗IL -1βモノクローナル抗体であるカナキヌマブ(canakinumab)を投与する大規模臨床試験(CANTOS試験)の結果が発表された3).結果,カナキヌマブ150mg投与群では,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,および心血管死からなる複合エンドポイントをかろうじて有意に抑制したものの,50mg投与群ではイベ*1 神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野*2 神戸大学医学部附属病院循環器内科准教授*3 神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野教授動脈硬化の早期診断法と予防対策─ 健康寿命延伸をめざして腸内細菌と動脈硬化吉田尚史*1・山下智也*2・平田健一*3動脈硬化は生活習慣病を基盤に発症する慢性炎症性疾患と考えられている.高齢化が進む日本において,患者層の高齢化だけでなく,食習慣の欧米化に伴う若年発症例の増加も問題となっている.そういった背景のなか,国を挙げて循環器疾患の克服を目指すために,健康寿命社会を実現しようと,2016年に「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」が発表された.一方,肥満の原因となることから注目を浴びた腸内細菌に関する研究は,動脈硬化領域においてもここ数年でさまざまな報告がなされている.われわれは以前から,ヒトと共生しその免疫や代謝を制御する腸内細菌に着目し,画期的な動脈硬化予防法・治療法の開発に力を注いできた.本稿では動脈硬化性疾患,特に冠動脈疾患と腸内細菌との関連について概説した後,われわれが行っている最新の研究を一部紹介しながら,腸内細菌に対する介入が増加する動脈硬化性疾患への切り札となるのか,今後の展望についても述べていきたい.