カレントテラピー 36-11 サンプル

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78 Current Therapy 2018 Vol.36 No.111118TMA/TMAO濃度が低下し,動脈硬化巣の増大がキャンセルされた,という報告は,腸内細菌が動脈硬化形成にも密接に関連することを証明する重要なエビデンスとして受け入れられた6).2年後の2013年には待機的に冠動脈造影検査を受けた4,007人の患者を3年間追跡するコホート研究の結果が発表され,血漿TMAO値高値群は低値群に比べて有意に死亡,心筋梗塞,脳卒中イベントが増加することが明らかとなった7).TMAOの動脈硬化促進の機序としては,マクロファージ泡沫化の増加,コレステロール逆転送系の抑制,血小板機能の亢進などが関与していると言われている6),8),9).その後の多くの臨床研究でも,血中TMAO値が冠動脈プラークの脆弱性や心筋梗塞の再発と相関することが報告されている(表).さらに動脈硬化性疾患だけでなく心不全や腎不全の患者でも血中TMAO高値であり,今後も多くの疾患で注目される物質であることは間違いないであろう.しかし,魚類の摂取で血中TMAO値が約50倍に増加することや10),腸内細菌がもつTMA lyaseの多い/少ないだけでは冠動脈疾患を的確に予測するには不十分であることも判明し11),TMA/TMAO以外の新たな疾患予測・疾患治療標的の発見が期待されている.Ⅲ 動脈硬化性疾患に特徴的な腸内細菌叢前述のTMAOに関する研究結果を鑑みると,腸内細菌と動脈硬化性疾患の間には密接な関係があると思われた.そこでわれわれは,神戸大学医学部附属病院に入院された,動脈硬化性疾患の代表例である冠動脈疾患患者を対象に臨床研究を行うこととした12).この臨床研究は,冠動脈疾患患者群39例と,冠動脈疾患の危険因子はもつが冠動脈疾患は発症していないコントロール群30例,さらに病気をもたない健常群50例の糞便を採取し,Terminal RestrictionFragment Length Polymorphism(T-RFLP)法により腸内細菌叢を解析したものである.T-RFLP法では制限酵素BslⅠを使用しており,腸内細菌叢を,Prevotella,Bacteroides,Lactobacillales,Bifidobacterium,Clostridium cluster Ⅳ,Clostridiumcluster ⅩⅣa,Clostridium cluster Ⅵ,Clostridiumcluster ⅩⅧ ,その他の10のおおまかな目から属レベルに分類することができる.その結果,乳酸菌などが含まれるLactobacillales 目の割合は冠動脈疾患患者で優位に多く,特に複数の冠動脈病変を有する患者でより多い結果となった.Lactobacillales 目の割合は,CD4陽性T細胞数と相関するとも言われており,冠動脈疾患が慢性炎症性疾患であることを考慮すると,Lactobacillales 目の増加は冠動脈疾患発症と何らかの関連があるのかもしれない.また興味深いことに,冠動脈疾患患者では,Bacteroides 属やPrevotella 属などのBacteroidetes 門の割合が,コントロール群や健常群と比べて有意に低下していた(図2左).さらに,冠動脈疾患患者はBacteroides 属が優勢菌であることが特徴的なエンテロタイプⅠに分類される割合が少なく(図2右),腸内細菌叢に占めるBacteroides 属の割合の低下が,冠動脈疾患論文対象患者患者数,国主要評価項目フォローアップ期間結果N Engl J Med:368(17):1575-1584, 2013待機的に冠動脈造影検査を受けられた患者4,007人,米国主要心血管イベント(心筋梗塞,脳卒中),死亡3年TMAO濃度の増加は心血管イベント/死亡を増加させる.Am J Cardiol:118(9):1311-1315, 2016冠動脈疾患患者26人,中国光干渉断層法で観察した冠動脈プラークの脆弱性- 冠動脈プラークの破綻を来たしている症例では,TMAO濃度がより高い.Clin Chem:63(1):420 -428, 2017急性心筋梗塞患者1,079人,イギリス全死亡と心筋梗塞の再発2年TMAO濃度は全死亡/心筋梗塞再発と相関する.表TMAO濃度が動脈硬化性疾患に与える影響を調べた主要論文