カレントテラピー 36-11 サンプル

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90 Current Therapy 2018 Vol.36 No.111130GWASと動脈硬化東京大学医学部附属病院検査部講師 蔵野 信動脈硬化性疾患の危険因子には,LDLコレステロールや喫煙,高血圧症などと独立して家族歴(遺伝)が存在することが確立している.また,脂質異常症など他の危険因子にも遺伝的要因が存在する.もちろん,家族性高コレステロール血症のように単一遺伝子の変異により生じる疾患もあるが,大部分の患者は,さまざまな遺伝的要素と環境要因と絡まって疾患を引き起こす.この「さまざまな遺伝的要素」を明らかにする手法としては,近年ではexome sequencingやgenome sequencingの手法も使われているが,比較的低コストで,網羅的解析が可能なゲノムワイド関連解析(genome-wide association studies:GWAS)が主流である.GWASは,全ゲノムに存在する数十万~ 数百万の一塩基多型(singlenucleotide polymorphism:SNP)を遺伝的マーカーとして調べ,疾患や臨床検査値と関連するSNPを同定する.疾患と関連すると同定されたSNPから,疾患関連遺伝子を絞り込むが,この前提として連鎖不均衡という考えが用いられている.すなわち,離れた場所の複数の多型の間は,関連があるため,疾患関連SNPと連鎖している遺伝子も疾患と関連している可能性が高い,という前提である.そのため,GWASは,「ある遺伝子が疾患と関連する」という仮定を必要としないため,全く想定していなかった遺伝子が見つかる可能性があるが,一方で,同定された,SNP,遺伝子が必ずしも疾患と因果関係があるとは限らない,という方法論上の限界点もある.さて,動脈硬化領域では,GWASは2000年代半ばより盛んに行われてきた.まず,冠動脈疾患と関連のある遺伝子が染色体9p21に集積していることが2007年に複数のグループから報告された.この領域は,冠動脈疾患の約20%の要因を説明できると提唱され,注目された.しかしながら,その機序はいまだよくわかっていないことも多く,細胞周期の調節にかかわるCDK4,CDK6と相互作用するサイクリン依存性キナーゼ阻害物質であるCDKN2A,CDKN2Bやリボソーム機能に影響を与え,増殖やアポトーシスに関連する遺伝子の発現を調節するANRILなどが9p21と冠動脈疾患の関連をつなぐ遺伝子として提唱されている.その他,炎症性ケモカインであるCXCL12,ヒストンの脱アセチル化を通じてさまざまな遺伝子の転写に影響を与えるHDAC9,動脈硬化性疾患の病態生理に重要な役割を果たす脂質メディエータであるリゾホスファチジン酸,スフィンゴシン1-リン酸の分解酵素であるPPAP2Bなどが動脈硬化性疾患関連遺伝子として同定されてきた.また,動脈硬化性疾患の危険因子である脂質異常症と関連する遺伝子を同定しようとする試みも多数行われている.われわれのグループでは,日本人を対象としたGWASを通じてPCSK7をはじめとする脂質異常症関連遺伝子を複数同定することができた.このようにGWASは,動脈硬化性疾患の新しい遺伝的要因を網羅的解析によって明らかにすることができる可能性がある強力な手法である.