カレントテラピー 36-6 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.6 45膵炎症性疾患547合併が懸念されるため,炎症のピークを越え,呼吸循環動態が安定した時点で予防投薬は終了すべきである.2)蛋白分解酵素阻害薬急性膵炎の発症進展には膵酵素の活性化が関与していると考えられており,その活性を抑制し膵炎の進行を防止する目的で,蛋白分解酵素阻害薬の静脈内投与が広く用いられている.重症例に対してガベキサートメシル酸塩の持続点滴静注が合併症発生率や死亡率を低下させるというメタ解析の結果もあるが,本邦での1年間のDPCデータを用いたpropensityscoreによる解析では,重症例で,死亡率,入院期間,総医療費のいずれも投与群・非投与群で有意差を認めていない.エビデンスに乏しく,ガイドライン2015では,蛋白分解酵素阻害薬の経静脈的投与による生命予後や合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていないが,重症例に対する大量持続点滴静注の効果については更なる検討が必要である,と推奨度も明確にされていない.3)動注療法本邦では,膵の炎症の早期鎮静化と感染予防を目的とした蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法が広く行われてきた.有用性を示す論文もいくつか報告されているが,本邦のDPCのデータベースを用いた解析の結果,死亡率,感染合併に伴うインターベンション治療の頻度で有意差を認めず,入院期間,医療費は動注群で高いという結果であった.このことからガイドライン2015では,動注療法は,膵感染率低下,死亡率低下において有効性を示す報告があるが有用性は確立されておらず,保険適用がないため動注療法は臨床研究として実施することが望ましい,と記載され,今後の多数例のRCTが必要であると結論づけられている.広範囲膵壊死が疑われる症例に対する有用性や膵perfusionCTによる動注療法適応の適正化なども検討課題である.4 その他の治療1)経腸栄養軽症例であれば,腹痛の消失,上昇していた血中膵酵素の低下を認めれば,経口摂取が可能である.重症急性膵炎では,必要エネルギー量の増大が大きく,中心静脈栄養が必要となる症例も多いが,完全静脈栄養は経腸栄養に比較して感染症の合併率のみならず,多臓器不全発症率や死亡率も高いと報告されており,高カロリー輸液と経腸栄養を早期から併用して行うことが推奨されている4).ガイドライン2015では,経腸栄養は早期に開始すれば,合併症発生率を低下させ生存率の向上に寄与するので,遅くとも入院後48時間以内に開始することが望ましいとされている.重症急性膵炎において,腹痛,血清膵酵素の上昇,軽度の腸管麻痺が認められても,早期経腸栄養を開始することの有用性が強調されている.投与経路としては,原則としてトライツ靭帯を越えて空腸まで栄養チューブを挿入することが推奨されている.しかし,最近のRCTやシステマティックレビューの報告によると,経腸的投与と経胃的投与では大きな差がないと報告されている.誤嚥等の合併症に留意しながら,少量から慎重に投与すれば経胃栄養も可能である.2)血液浄化療法急速輸液を継続しても循環動態が不安定で十分な尿量が得られない場合,腎不全や後述するコンパートメント症候群に進行する可能性がある.このような症例に対しては血液浄化療法(continuous hemodiafiltration:CHDF)を導入し,循環動態を安定させることが推奨されている.しかし,膵炎に伴う炎症性サイトカイン除去目的のCHDFはエビデンスに乏しく推奨されない.3)腹部コンパートメント症候群対策近年,腹腔内圧(intra -abdominal pressure:IAP)が亢進(intra -abdominal hypertension:IAH)して,多臓器不全を引き起こす腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:ACS)と称する病態を,重症急性膵炎で発症することが報告された.ACSを発症すると,後腹膜腔内や腹腔内の臓器灌流圧の低下,下大静脈の圧迫で静脈還流障害による心拍出量低下,横隔膜挙上で胸腔内圧上昇による換気不全,頭蓋内圧上昇など多臓器不全へ急速に進展し,致命的な転帰となる.IAPの測定は非侵襲的な膀胱内圧の測定が推奨されている.IAPが12mmHg以上持続もしくは反復する