カレントテラピー 36-7 サンプル

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12 Current Therapy 2018 Vol.36 No.7618lizer)などPPI血中濃度に影響を与える因子,夜間逆流(睡眠障害),心理的要因,基礎疾患,弱酸逆流,アルカリ逆流,好酸球性食道炎や食道アカラシアなど他疾患の鑑別などが挙げられる12).これらは単一の因子ではなく複数の因子が原因となっている症例も多い.Ⅵ PPI長期内服の課題PPI長期療法に関しては,消化管感染症(特にClostridium difficile 感染症),骨折,市中肺炎,ビタミン・ミネラル吸収障害(Vit B12,Fe,Mg),カルチノイド,胃癌,薬剤相互作用によるクロピドグレルの効果減弱など,さまざまな問題点が指摘されてきた1).最近では,心筋梗塞,慢性腎疾患,認知症など重要疾患との関連も指摘されている13)が,いずれも疫学的研究に基づくものであり,交絡因子も多いことから病態機序を含めた更なる検討が必要である.ガイドラインでは,「これらの問題はPPIとの直接的な因果関係が明らかとは言い難いが前向き試験が困難である.しかしQOLに直接影響を及ぼすこともあることから,高齢者,栄養不良,重篤な合併症を有する症例では一定の注意が必要である」とコメントしている1).全般的にはPPIの安全性と有効性は確立されており,必要な症例において必要最小限の用量のPPIを必要期間投与することが重要である.しかし,胃酸の本来の生理作用から考えると殺菌作用が弱まる可能性が否定できない.最近のメタゲノム解析でもPPI投与による腸内細菌構成の変化が指摘されている14)が,このような腸内細菌の変化と疾患発症とのかかわりについては不明である.唯一,NSAID/アスピリン小腸粘膜傷害には腸内細菌のdysbiosisが関与しており,PPI内服によりさらに腸内細菌叢が変化すれば小腸粘膜傷害が悪化することが示唆される.実際,重症小腸粘膜傷害のリスク因子として高齢やPPIが挙げられている15).一方,PPIによる酸分泌抑制のネガティブフィードバックとして血清ガストリン値の上昇が指摘されている16).ガストリン上昇はECL細胞過形成をきたしカルチノイド発生が危惧されたが,現状ではきわめてまれと考えられている.しかしながら,血清ガストリン高値の長期持続が全身に及ぼす影響は未解明な点も多い.Ⅶ P-CABの意義2015年発行のガイドラインにはP -CABの成績が含まれていないことから,ボノプラザンのGERD診療における意義について述べる.ボノプラザンは既存のPPIに比べて壁細胞分泌細管に集積しやすく,酸安定性があり,酸による活性化を必要とせずカリウムイオンに競合的に結合し,プロトンポンプを阻害して胃酸分泌抑制作用を有することから,他のPPIに比較して酸分泌抑制力が強く,またCYP2C19遺伝子多型の影響を受けにくい特徴を有する17),18).したがって,重症びらん性GERDに対しては第一選択と思われ,また立ち上がりの速さから症状の早期消失を希望する患者には軽症びらん性GERDでも初期治療から有効と考えられる.維持療法においてもボノプラザン10mgが有効であるが,酸分泌抑制作用の面からはむしろオンデマンド療法や間欠療法に優位性が期待されるほか,PPI抵抗性GERDにおける有効性やPPI抵抗性NERDにおける逆流過敏症や機能性胸やけの鑑別における有用性など,今後役割が期待される.長期投与に関する問題,特に強力な酸分泌抑制作用による高ガストリン血症については,今後の症例集積を待ちたい.Ⅷ おわりにGERDの病態と薬物治療についてガイドラインを中心に述べた.PPI抵抗性NERDやPPI長期内服に伴う合併症など解決すべき課題は残されている.しかし,PPIやP-CABにより多くのGERD症例では十分な治療が可能である.