カレントテラピー 36-8 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.8 11結核の動向とその対応739個別化医療が行われている.しかし,特に高齢者は,合併症,副作用などにより,治療に難渋する例も多く,さらに独歩退院へ向けた積極的リハビリテーション,退院後の受け入れ先の確保など課題は多い.多剤耐性結核に対しては,わが国では先行したデラマニドに加え,最近,ベダキリンも使用できるようになったが,耐性菌の出現を抑えるため,それらの薬剤の使用条件は,厳格に定められている.結核はいまだに年間1.7万人が発病している現代の病気である.しかし一般人のみならず,医療従事者の間でも,経験や認識が薄れてきており,受診の遅れ,受診後の診断,届出の遅れにしばしば遭遇する.これは,当事者にとっての不利益のみならず,さらなる感染の拡大を招くことになる.高齢者施設,医療機関,学校,刑事施設などにおける患者発見の遅れは,介護・医療従事者や,同一施設利用者に集団感染を引き起こす危険性がある8).もともと,結核に独特の症状は乏しく,慢性に進行し,特に高齢者では,他稿で詳述されるが,認知症,その他の合併症,さらに加齢に伴う免疫低下,一般抗菌薬(特にキノロン系)による症候の修飾などにより,しばしば非典型的な症状,所見を示す.医療者は鑑別診断のひとつとして,常に結核を念頭に置き,疑わしければ喀痰の抗酸菌塗抹,培養検査,核酸増幅法検査を行うことが求められる.Ⅴ 接触者健診等における結核感染診断法の普及と分子疫学的手法の活用状況結核感染の診断方法として,ツベルクリン反応が古くから用いられてきたが,BCG接種や多くの非結核性抗酸菌と交差する抗原性のため,検査としての特異性が十分ではなかった.これに対して,他稿で詳述されるように,結核菌特異抗原の刺激によってリンパ球から遊離されるインターフェロン-γを測定するインターフェロン-γ遊離試験(interferon-gamma release assay:IGRA)が,わが国では世界的にみても早い時期から結核の感染診断に用いられている9).IGRAは結核菌が体内で定着,増殖する過程において,所属リンパ節で抗原提示細胞に提示される結核菌タンパク抗原に対するT細胞免疫応答を反映していると考えられ,肺胞マクロファージに菌が取り込まれてから2カ月ほどで,発病にかかわらず感染が成立すれば陽性化する.IGRA陽性時,陰性時の正診率は,対象者の背景に大きく影響されるため,結核の可能性が低い集団での偽陽性,結核の疑いが濃厚な集団での偽陰性の存在には特に注意して,総合的な判断を心がけるべきである.接触者健診などの場で,保存した臨床分離株から抽出したDNA配列を適切な方法で解析することにより,ふたつの菌株が同一菌由来であるか否かをかなりの正確さで判定することができる.このような分子疫学的手法を用いて伝播経路をたどり,隠れた感染の連鎖や感染の場を知る手がかりが得られる10).わが国ではゲノム上のリピート配列のコピー数を複数の座位にわたって調べるvariable numberof tandem repeats(VNTR)法が実施されることが多いが,今後,全ゲノムシークエンス法による変異解析が活用されるものと思われる.高齢者結核の多いわが国では,発病者が感染の連鎖の外にあるか(内因性再燃),内にあるか(再感染)は公衆衛生上重要である.またアジア地域の結核菌系統は国や地域により特徴があるため,感染を受けたのが国内か国外か推定できる場合がある.例えば,結核菌のフィリピン株はほとんど遺伝的に第一系統のEAI2-Manila型結核菌であるが,わが国ではこのような株はほとんどみられない.Ⅵ 潜在性結核感染症への効果的介入潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)は,活動性結核と判断される臨床的に顕在化した症状,所見がなく,結核菌に対する免疫応答が持続している状態と定義することができる.わが国が結核の低蔓延国化を達成するためには,高齢者に対する定期健康診断の重点化を含む早期発見,早期治療により,確実に結核の感染の連鎖を断つとともに,発病の危険性の高いLTBIを確実に治療す