カレントテラピー 37-1 サンプル

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18 Current Therapy 2019 Vol.37 No.118度が上昇するが,血中FFAの過剰状態は筋組織や膵臓,肝臓などの異所性脂肪蓄積につながる.筋組織に異所性に蓄積した中性脂肪は,アシルカルニチンやlong-chain fatty acyl CoA(LCFA-CoA),セラミド,ジアシルグリセロール(diacylglycerol:DAG)などの毒性を有する代謝産物を生じることにより,筋組織のインスリン抵抗性を惹起する.実際,中性脂肪合成の最終段階にかかわるdiacylglycerolacyltransferase(DGAT)2を阻害すると,肝細胞への脂肪蓄積は軽減するが肝細胞傷害はむしろ増悪することが示されている9).これは,DGAT2阻害で肝細胞内に毒性の高いDAGが増加することに起因する.すなわち,過栄養条件下での肝細胞における中性脂肪合成は,脂肪毒性からの細胞保護作用の一環としてとらえられる.そもそも,肝臓への脂肪蓄積は高血糖の回避機構でもあり,脂肪肝形成によって全身を糖毒性と脂肪毒性から保護していると見做すこともできる.Ⅴ 細胞内ストレスと微小炎症の関与肝臓では慢性的なFFA過剰により糖新生が惹起され,高インスリン血症の一因となる.飽和脂肪酸はtoll-like receptor(TLR)を介してNF-κBシグナルを活性化し,炎症を惹起する.飽和脂肪酸のパルミチン酸は肝細胞内でオートファジーを抑制して小胞体(endoplasmic reticulum:ER)ストレスや酸化ストレスを増大させ,c-Jun N-terminal kinase(JNK)活性化を介してインスリン抵抗性を形成する.ERストレスはSREBP -1cを活性化して脂肪酸合成を促進するとともに,apoB -100の翻訳の抑制,分解の促進によりVLDL産生を抑制することで,肝細胞への脂肪蓄積を促進する.ERストレスは酸化ストレス増大の誘因ともなり得ることから,ERストレスによる細胞障害の少なくとも一部は酸化ストレスを介したメカニズムによると考えられ,肝細胞アポトーシスを誘導する.脂肪組織や肝臓におけるインスリン抵抗性の形成には,慢性炎症に伴うマクロファージ活性化と炎症性サイトカイン・ケモカイン産生も寄与しており,インスリン作用の減弱に伴いインスリン基礎分泌が亢進し,早朝空腹時の高インスリン血症・homeostasismodel assessment for insulin resistance(HOMA -R)上昇が認められる.また,NAFLDでは肝臓でのインスリンのクリアランスが低下していることも,末梢血中の高インスリン血症をさらに助長すると考えられる.インスリン抵抗性状態では,インスリンの作用である糖新生抑制が生じ難くなっているが,一方でインスリン受容体からIRS1を介したSREBP1c誘導に伴う脂肪合成系はむしろ亢進している.すなわち,インスリン抵抗性といってもインスリンの生理活性すべてが減弱しているわけではなく,糖代謝に限ったインスリン作用の抑制であることに留意することが重要である.インスリン抵抗性状態における肝脂肪蓄積には,IRS1/2の肝小葉zoneによる発現変化に伴う中心静脈周囲(zone 3)での脂質合成亢進が寄与していることが示されている10).また,インスリンは代謝調節作用のみならず増殖因子としての活性もあり,このようなインスリンの多彩な生理活性の亢進が肝線維化の進展や肝発癌にも寄与している可能性が示唆される.Ⅵ アディポカインと肝内自然免疫系の役割過剰に摂取された糖質は中性脂肪に変換され,主に脂肪組織に蓄積するが,脂肪組織への中性脂肪の過剰蓄積はインスリン抵抗性やアディポカインの分泌異常を生じる.アディポカインは脂肪組織から産生される生理活性物質の総称で,レプチン,アディポネクチン,plasminogen activator inhibitor(PAI)-1,レジスチンの他,炎症性サイトカインであるtumor necrosis factor(TNF)-αやケモカインのmacrophage chemoattractant protein(MCP)-1(CCL2)なども含む.実際には脂肪細胞以外の細胞から産生される因子も含まれており,脂肪組織以外の臓器での産生もみられる.これらの因子は単独での生理活性に加え,複数の因子の発現バランスの変化によって病態に影響を及ぼしていると考えられて